天体撮影専用カメラは蛍光撮影に対して有効なのか!?

先月キヤノンから発売された天体撮影専用一眼レフカメラEOS60Da(以下60Da)について蛍光撮影への転用の可能性を検証実験しました。

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2012年4月にキヤノンから発売されたこの機種は、現行品のハイアマチュア向けデジタル一眼レフカメラEOS 60Dに改良を加えたもので、2005年に発売されたEOS20Da以来実に7年ぶりの天体撮影専用モデルです。
まず気になるのがその性能ですが、ベースモデルであるEOS60D(以下60D)と比べ機能的には大きな差がなく、唯一変更されているのはCCD前面に配置された光学フィルター(ローパスフィルター)のみとなっています。

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この光学フィルターの変更がなぜ天体の撮影に有利なのか。それを簡単に説明すると以下のようになります↓

ベースモデルの60Dをはじめあらゆる一般的なカメラは主として太陽光を基準に設計されています。
これにより、人間の目で見た通りの色のバランスを機械であるCCDが正確に再現できるようになります。
一方でこの60Daが捉えようとする光は宇宙から来る光。太陽以外の惑星や銀河が放つ光です。
これらの光を正確に捉えようとなると、太陽光(日常の光)に特化してきた機械にとっては限界が生まれてきます。
そのために、フィルターの特性を変え、宇宙に含まれる光に対して局所的に感度を上げることでより正確で美しい写真を捉えることができる、いわば宇宙版の色眼鏡をつけた機種がこのEOS60Daなのです。

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では、光の中でも具体的にどこに特化しているのかと言うと、それはずばり赤い光。その中でもHα線(波長656.28nm)という薄い赤です。これにより下の写真のように今までは闇にまぎれていた赤まで撮影できるようになります。
ちなみにこのHα線というのは宇宙に最も豊富に存在する元素である水素が発する光です。下写真のような赤色星雲の撮影をはじめ、宇宙を撮影する際に最もメジャーな波長の光なのです。
キャノンが公表している内容では、ベースモデルの60Dに比べてこのHα線に対する感度は約3倍になっているそうです。

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さてここからが本題ですが、これらの性能が果たしてどれほど蛍光撮影に対して有利に働くか、早速サンプルを撮影してみました。

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          EOS60Da / ISO感度6400 / ss 1.6(クリックして拡大)

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          EOS60D / ISO感度6400 / ss 1.6(クリックして拡大)

おわかりになるでしょうか。下の60Dの写真に比べ60Daで撮影した赤色蛍光の方が、繊維状の細かい分布がより際立って捉えられています。
拡大画像はこちら↓

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EOS60Da拡大図

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EOS60D拡大図

ただし、このサンプルの蛍光試薬の最大蛍光が599nmであるため上天体写真ほど大きな違いは生まれませんでしたが、よりHα線の波長(656.28nm)に近い蛍光を発するサンプルであればさらに大きな効果があると期待できます。

さらに緑や青の蛍光については、赤色側の感度を上げた分犠牲になっている部分もあるのではと予想していましたが、まったくそのようなことはありませんでした。ベース機の60Dと比べてまったく遜色ありません。むしろ青色の感度がわずかながら上がっている印象を受けました。公表こそされていませんが、Hα線以外の波長に対しても感度を上げているのかもしれません。

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このように、一概にすべての蛍光に対して大きな効果があるということではありませんが、一定の波長帯(特に赤色蛍光)に対しては大きな効果が期待できることがわかりました。
そもそもベースになっているE0S60Dという機種自体、高感度/超秒時撮影が得意な機種です。
最大ISO6400からさらに拡張することでISO12800という超高感度で撮影が可能なうえ、高感度/超秒時撮影に対して2つのノイズリダクション機能を備えており、驚くほど高精細な写真の撮影が可能です。
つまり、それだけでも蛍光撮影に対して有効だったなかで、さらに感度を向上させたこの機種は、間違いなく蛍光撮影に対して有効な機種と言えるのではないでしょうか。

2012年05月15日に作成した記事です。

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