野口竜平「バラバラについて(3日目)」

今回のレジデンスの受け入れ先として滞在のコーディネートをしてくれている瀧瀬さんにあう。
直接会うのははじめてだけど、共通の友人が何人もいて、大学が一緒で歳が近いというのもあるが、大学以外で出会った人たちのなかにも共通の親しい人が多いのがおもしろい。(ちなみにこの出会いはアーツカウンシルしずおかのマッチングによるものである)

少し話してみてすぐに、パワフルで芯が強く自然と人を惹きつけるタイプの人だと思った。ずっと笑顔でたのしそうにしている。
数ヶ月前に東京からこちらに移住してきたようで、普段は編集や翻訳の仕事をしているとのこと。ちなみに彼女の仕事場は、おれが台湾で出会って仲良くなったファンキーな建築家と同じシェアオフィスらしい。

一緒に昼ごはんをたべようとなったが、財布にお金が入っていないことに気づき、郵便局までおろしにいきがてら商店街や周辺を案内してもらった。彼女は引っ越しきて数ヶ月のはずだが、だいぶ町のことに詳しい。

通りがかった富士山関連のおみやげやさんに入り、お店の女性(店主の奥さん?)におれのことを紹介してくれた。
自己紹介をするとあまりに興味深そうに聞いてくれるもんだから、蛸やタイヤなどの込み入ったことをどんどんと話してしまった。

こんな風にじっくりと聞いて関心をもってもらえるのは珍しくうれしかった。
瀧瀬さんは「この町のひとたちは他者に寛容で、カラッとした好奇心で関わってくれる」と話していたが、この状況は瀧瀬さんの細やかな編集や翻訳━━たとえば、安心してはなせる空気感をつくったり、適度にあいづちを入れたり、話をふったり質問してくれたり━━があったからこその出来事にも感じた。

その後は唐揚げ丼を食べながらいろいろなことを話す。

「音が肌を突き刺しくる時がある」と独特なことをいっていた。たとえばドンキホーテの店内に流れる音楽とかはそういう感じらしい。
身体への感度や問いが彼女の哲学のベースになっているような気がした。例えば音と皮膚の関係を考えることは、職能としての編集や翻訳と地続きにあるんだろうと思う。

「富士市の中心がどこなのか、みんなわからない。バラバラな感じがすき」
そう言う彼女は、この土地でアーティストインレジデンス(よその芸術家が滞在し活動できるスペース)を始める準備をしている。

夜。自転車で町をはしってみた。
末端崖(まったんがい)が立ち塞がって直進できないこともあり、ぐるぐるしているとすぐに迷子になってしまった。

同じくこの企画で、函南にレジデンスに来ていた友人、西松さんの滞在まとめテキスト
「函南町の地図を頭でかけるようになった時、点々と散っている時代や学問のバラバラな興味が一本の線でつながるような気がする。」
というふうにしめられていた。
彼が函南で実施した縦横無尽のドライブは、空間と観念を統合してゆく旅になったようである。


地形、気候、風土、歴史、気質、現在、私、あなた、私たち、あなたたち、わからないこと、わからないもの。
通り過ぎるものの特権は、その場所にまつわるめいめいをバラバラなまま、満点の星空のように全身に浴びれることだと思う。

私はそこで、そのまま通り過ぎてもいいし、星の一つになったっていいし、星座をひいてもいいし、立体的に塑像を試みるのもいいのである。