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水野渚「漂着した先は、サビオナンド」(7日目)

昨夜は、豪雨だった。夜何時くらいだろうか。雨脚が強まり、雨がトタン屋根を激しく打ち、夜の大演奏会がはじまった。
鉄琴と木琴を使ったロックのような激しい演奏会が数時間続いたが、夜中のうちにお開きとなったようだ。
今朝は少し祭りの余韻が残る、曇り空だった。

さあ、今日は奏庵を旅立つ日だ。

この旅がはじまって最初に書いたnoteで、「海」「古民家」「温泉」に惹かれて稲取にやってきたと書いた。「海」に惹かれる理由は書いたが、「古民家」についてはまだ触れてなかったので、今日はその話をしよう。なお、稲取には「温泉」はあるが、町営の温泉や銭湯はないので、「温泉」の説明は割愛させていただく。

今回7日間滞在したのは、合同会社so-anが運営している、空き家をリノベーションした古民家である。再生・活用してほしい空き家の相談が、合同会社so-anにまいこみ、いくつかの空き家を改装している。

私ともう一人のアーティストである松本真結子さんが滞在したのは、「錆御納戸」(サビオナンド)という名前の家だ。

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音を聞いたときは、カタカナ外来語かと思ったら、江戸時代の流行色のひとつでくすんだ深い緑がかった青色のことを指すそうだ。
たしかに、家の外壁の一部には、薄くなった青色の塗装が塗られている。
年月が経つことで出る渋みを表現した、なんとも粋な名前だ。

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「錆御納戸」では家が生きていることを感じる。

まず、冒頭の雨。昨日の雨合唱が激しかったというのもあるが、家の中にいても、太鼓の振動のように、雨の動脈をどくどくと直近で感じる。木造の柱は、力強さと安心感、温かみを提供し、一家の大黒柱として家を支えている。また、光を通す障子によって、外界と遮断されずに、太陽の恵みを家の中に取り込むことができる。

玄関では、「山村」と書かれたポストを発見。
山村さんが暮らしていた気配をひっそりと残したまま、so-anの荒武さんへ引き継がれ、さらに全国からいろんな人が「錆御納戸」に漂着しているのだ。
この家は、ずっと稲取のこの地に立っているが、漂着してきた人々を、やさしく包み込んでいる。

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私も漂流者気質がある。
一つの土地に根ざすことができずに、いつもまだ見ぬ土地への憧れをもって生きている。最近はどこか自分の「ローカル」を見つけて、その土地で活動することもしてみたいと思うようになった一方、漂流することも捨てがたい。

だから、自らが動かずとも、他者が動くことで、別の世界をみることができる「海」や「古民家」に、惹かれるのかもしれない。

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最終日、家の近所を歩いていたら、稲取を象徴するような色をしたトタンの家に出会った。朝日と夕日や、稲取の赤色と橙色など、この1週間で体感したいろんな色を思い出す。

さようなら、「錆御納戸」。
私はいつかまた、あなたのところへ流れ着くかもしれない。

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