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吉﨑裕哉「最後の村、萌芽を生成せしめ...」龍山町1日目

現在住んでいる横浜市鶴見区から首都高と新東名を乗り継いで、下道をさらに40分ほど北上したところに今回の目的地である龍山町がある。

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静岡県浜松市天竜区龍山町。17年前のいわゆる「平成の大合併」により静岡県最後の村であった龍山村が消滅し、現在の天竜区龍山町となった。

天竜川の傍に佇む静かで穏やかなこの町は令和4年2月現在281世帯、508人が暮らしているが、第二次世界大戦終結後は4824人、さらに最盛期には峰之沢鉱山や秋葉ダム建設工事に関わる人々の移住により1万3000人余りが暮らし活気に満ち溢れていたという。しかしその後、峰之沢鉱山閉山や秋葉ダム建設工事終了に伴い徐々に人口は減っていき、今では浜松市にある地区の中でも最も人口の少ない地区となってしまった。


今回お世話になる「天竜四季の森」の鈴木のぞみさんはこの龍山で生まれ育ち、都会や海外での活動を経て、また龍山に戻ってきた音楽家である。
龍山の空気にぴったりの明るく温かいお人柄の彼女に連れられて滞在初日の今日は瀬尻白山神社へと向かった。

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瀬尻白山神社・・・天竜区瀬尻地区内の小仏山に鎮座、祭神は白山比咲神。
         創立勧請は安和元年の棟札が発見されたが腐朽しており詳細不
         明。口伝によれば鬼石家の祖である賀茂運太夫、式部太夫兄弟
         が加賀国白山神社に参宮の上、御鏡を拝受し今の白山神社に奉
         納したことが始まりという。左に事麻知神社、右に住吉神社が
         あり住吉神社の御神体は龍山伝承の「小仏様」である。

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宿泊先から細い山道をクネクネと登っていった先に、杉と檜に囲まれた立派な神社があった。宮司の佐奈要介さんは、普段は秋葉山本宮秋葉神社で権禰宜を務め、自らの休みの日を使って月に数回こちらの瀬尻白山神社へ赴いていらっしゃる。これまた柔和なお人柄の佐奈さんに白山神社の歴史や御神体のいわれなどについて教えていただいた。

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社務所にてお話を伺った後に、白山神社と隣にある住吉神社にてお祓いをしていただき、今回お世話になることを土地の神様にご挨拶させていただいた。
宮司の佐奈さん自身も月に数回しか来られないということもあって、本殿が開いているのは貴重らしく、ホストであり白山神社の氏子である鈴木さんも初めて本殿に入ったらしい。
お祓いの時に佐奈さんが祓詞を言い始めると本殿の中にサーっと日の光が入り、本殿内が暖かく柔らかい空気に充たされたのが印象的だった、勘違いかもしれないが。
それほど貴重な経験をさせていただいたということだろう。

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↑白山神社

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↑住吉神社

お祓いとお参りを終えた後、社務所に戻りお茶をいただきながら雑談をしていると、「これからの白山神社のことを考えると不安がある」と佐奈さんがおっしゃった。町の人口減少に伴い、訪れる人も減り、小学校などの教育機関を持たないこの龍山では毎年開かれる例大祭でも子供が舞い踊る恒例の神楽は行われなくなってしまったという。このままではいけない、何か行動を起こさなければいけないという、白山神社に対する佐奈さんの個人的な想いはとても切実なものがあった。

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風が強くなり雪がチラついてきたところで白山神社を後にし、宿へ戻る車中でホストの鈴木さんになぜこの龍山に戻ってきたのかを尋ねると、
生まれ育ったこの龍山の人口が減少の一途を辿り、小中学校、幼稚園も閉鎖され、「町が無くなってしまうのではないか」という危機感を感じたといい、そこで自分が培ってきた音楽や芸術の力によって人を集められないかと思ったからだという。
そう語る表情や語気に龍山に対する切実な想いを感じずにはいられなかった。

今日出会ったお二人のお話を聞く中で、「町が無くなってしまうのではないか」という考えは既に杞憂なのではないかと感じた。二人の静かだが切実な想いがそう思わせた。
そこには自分に何ができるかを問い、人生を賭してそれに抗っている「人」が確かにそこに在った。
最後の村と言われたこの龍山で、小さい何かが、確かに萌芽生成せしめているところを見た。
そこに花が咲くかはまだ未知だが、それだけで、十分美しいと感じた。

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町内の90パーセントを森林が占め、町を分割するように天竜川が流れるこの土地は、来て間もないが芸術家が求める根源的かつ特別なインスピレーションが眠っていると感じた。実際鈴木さんに呼ばれ多くのアーティストがこの町を訪れているという。
僕も芸術家・舞踊家として、例えば白山神社の例大祭で奉納舞踊をしたらどうだろうか、(龍山の白倉という地区に伝わる今は担い手がいなくなった)白倉囃子を現代の解釈で「新しい白倉囃子」として作り直してみたらどうだろうかなど、「芸術家にできることは何か」という問いが頭の中で渦巻いている。
人間が生きていく上では必ずしも必要でない芸術は、日本という国では決して高い社会的地位があるわけではない芸術家は、この地域の切実な想いにどう応えていけばいいのだろうか。
難しくもとても胸がワクワクする問いに悩まされ明日からの龍山巡りに想いを馳せ、今日のレポートは終わりにする。

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瀬尻白山神社の佐奈さんは白山神社のInstagramをやっているので是非見てみてください!! @hakusan.jinja

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