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三浦雨林「まえがき」(4日目)


13:00 涅槃堂

 今日は午前中にリモートの業務をし、お昼ご飯を食べて出発した。図書館へ行くつもりだったが、宿から出てすぐに涅槃堂の看板を見て行先変更。そういえば行っていなかった。

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 お寺の竹林横にあった建物。すごい土壁。

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 階段を登ったところにいた狛犬。作りがはじめタイプなのと、お寺にいるということ、お堂が1624〜1623年ごろに建てられているようなので、この狛犬も400年ほど前からここにいるのかもしれない。400年。たくさんの人と出会って、たくさんの人と別れたんだろうな。そばには静かな墓地があった。誰もこなくなったお墓はこの中でいくつあるだろう。対になるもう一体は見当たらなかった。

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 拝観は事前予約だったらしく、外から覗くことに。上記のスイッチを押すと、お堂内が点灯して涅槃像が見え、音声案内が流れるシステムだった。
 この涅槃像は「日本三大寝釈迦」と言われるほど立派で由緒あるもののようで、窓の反射に負けずになんとか覗き見る。窓の外から見ても金色に輝いていたが、案内によると塗り直しなどの手を加えられていない、造られた当時のままとのこと。
 涅槃像のまわりには悲しむ人々の彫刻もあり、それら全てでひとつの作品のようだが、よく見えなかった。次は予約してこよう。

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 せっかくなので、涅槃堂を出てすぐのカフェにも寄ってみる。おしゃれな店内には、生花とクリスマスグッズと何かをダウンロードしている画面が映った大きなスクリーン。お花屋さんがカフェをやっているようで、きれいな生花をたくさん売っていた。店内から温室にそのまま入れる構造になっていた。注文した後、店内のクリスマスグッズをぼんやり眺めていると、「マリオカートエイト!」という声と陽気な音楽が爆音で鳴り響いた。思わず笑ってしまった。ダウンロードしていたのはSwitchのマリオカート8だった。先客だった親子(オーナー?)が早速ゲームをし始めて、店員さんも「このカフェ大丈夫かなって思いますよね」と笑っていた。

 テイクアウトしたカフェモカを飲みながら自転車を押していくと、長い竹を木に立てかけている男性がいた。

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 めちゃくちゃ長い。凝視していたら目があった。挨拶をすると、にっこり返してくれたので、「これは何をしているんですか?」と聞いてみた。男性は、「これ軒下の蜘蛛の巣を払うやつなんだけど、ここに置けないかと思って」と教えてくれた。なんと、長い長い天然の箒だった。「長!」とびっくりしていると「これじゃないと届かないからよ」と言い、収まりのいい場所を探してまた微調整をしていた。
 私の育った北海道には竹が無い。気候的に生えないので、上京するまで昔話の描写だと思っていた(瓦屋根や柿・蜜柑の木も同様に)。竹林が現代も普通に人間の暮らしと密接しているなんて考えられなかった。いいなあ。「なんか長い箒欲しいな」と思ってその辺りの竹林まで丁度良さそうなものを探しに行ったのだろうか。いいなあ。

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 空き地にぽつんと置かれていた石。たぶん伊豆石。きっと何かの建物を取り壊した跡地だと思うが、あの石は何に使われていたものだろう。どうしてあれだけ取り残されていったのだろう。

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14:00 河津町文化の家

 本来ならば自転車で10分のところを、宿を出て1時間後にようやく到着。
 郷土資料を読み漁った。閉館が18時なので、いい感じに作品を書く時間になるかな、と思っていたが甘かった。結果的に、4時間休憩なしで資料を読み耽っていたようだった。今日は私の過集中が良い方に転じた。たくさん発見があったので、また明日まとめてみようと思う。

 多く資料を読んだ中で、稲葉修三郎さんが書いた『川津むかし話』のまえがきが、とてつもなく良かった。河津の昔話を語りの文体で書いた本編ももちろん素晴らしいのだけれど、稲葉さんの手書きのまま著の冒頭にまえがきとして載っている文章がすごすぎて、静かな図書館でひとり熱くなっていた。稲葉さんの言葉と書かれた文字に全くズレを感じない。気取った部分がまるでない。稲葉さんに直接語られているかのような一致感。興奮してしまった。すごい文体だ。静かで無駄がなく、気取らず、やわらかく、稲葉さんの言葉として語られる。声が聞こえる。すごい。何度も何度も読む。読めば読むほどすごい。私には書けない。静謐で達観しながら、優しい柔らかい文章。自分について書く時に、こんな風に書くことが出来るまでにあと何年かかるだろう。
 どこかでこの本を買えないだろうか。というか稲葉さんにお会いしたい。と興奮冷めやらぬ中、閉館時間になりバタバタと退館した。

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19:00 温泉〜ご飯

 そのまま帰る前に、温泉へ。通い始めて3日目で、なんだか肌の調子がいい気がする。今日も柚子湯だった。
 柚子と一緒に露天風呂に入っていると、だんだん自分がカピバラに思えてきた。温泉、好きすぎて永遠に入っていられる。露天風呂は風があってのぼせない。長く入りすぎて他の人が入ってきては出ていくのを何度も見送る。1000年生きている大楠や400年行きている狛犬たちの出会いと別れを再び想像した。

 晩御飯は沼津産の赤魚粕漬をホホホタケと一緒に焼いた。調理後・調理前、どちらの写真も撮り忘れた。

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