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画家の小池壮太です。

 この度アーツカウンシル静岡が提唱するマイクロアートワーケーションに参加しました。僕の選んだ舞台は松崎町。伊豆半島の南部に位置し、鉄道がないため車でのアクセスとなります。僕は三島から東海バスで行きました。この松崎町は「世界でいちばん富士山がきれいに見える町」を謳ってますが、魅力はそれだけではありません。海鼠壁が残る町並みや、棚田、火山が作り出した地形など、風光明媚な地であり、「日本で最も美しい村」連合に加盟しています。

松崎町での活動
 1週間の滞在では、風景画の素材探しを主に、古くから残る伝統や産業、技術について学びました。これは新たな作品への糧としたいと思います。また、今抱える問題点を色々と聞くことで、芸術が社会に関わっていくためのヒントを探りました。松崎町観光協会はじめ、多くの町民の方の助けを借りて、主たる文化財は全て見学しました。その中からいくつか記述したいと思います。
 ・田んぼをつかった花畑 /「花いっぱい運動」などの作業を見学 
地元の高齢者の元気ぶりに驚きました。近所の方に似たカカシを作られたり、ブラックジョークを交えながらのカカシ制作など、ブリコラージュの萌芽を見たように思いました。

ブリコラージュとは レヴィ=ストロースが提唱した民間芸術のあり方。純粋芸術との違いは、技法や体系によらず、日用品などのありあわせをつなぎ合わせて作り出していく点。

カカシ。こんな人いる。
花いっぱい運動/ダンサーのasamicroさんと

・旧依田邸/岩科学校/長八美術館/中瀬邸などを見学:建築物の素晴らしさに比べて、入場料の低さ、活用頻度の低さを残念に思う。


旧依田邸

・T先生/Sさんの農場/Mさんから解説を聞く:皆、松崎町を良くしようとする、熱意を感じました。またこの地の産業と文化の関係を知ることができました。(ブログ掲載の確認が取れていない為、イニシャル名にしています)

ゲストハウス イトカワの伊藤さんと

・2030松崎プロジェクト 静岡大学と共同で行われている10年後のまちづくり協議に参加させて頂きました。

各班に分かれて、一般参加者を交えて議論ののち発表

 この地の歴史文化を学び、松崎町が伊豆の地質、地の利を活かした産業で栄えた町だと知りました。江戸城にも使われている伊豆石の産地。伊豆半島より東は海が荒れるため、江戸へ行く為の風待ち為の寄港地。そして「伊豆炭」の産地でもあり、「松崎表」として有名な畳の産地でもあります。また明治期からは繭(まゆ)の産地としても隆盛を極めました。
 ある地域に文化が築かれるには、膨大な資金が必要です。江戸期から戦前までの産業の隆盛は、松崎の文化を語る上で大事な点だと思います。

松崎町の特徴
 炭や畳など、生活必需品を生産していた為、富が集積し、狭い町の中に多くの豪奢な建物が並んでいます。特に伊豆炭の産地として栄えた八木山地区など、漆喰を細部まで施した家々が山深い中に突然現れる光景は、異彩を放ちます。日本のよくある山間部では、庄屋の家は立派でも他の家は割とこじんまりとしていることが多いのですが、この地区は多くの立派な家が立ち並んでいるのです。

八木山地区の家

 また鉄道がないためか、ビルなどもほとんど建たず、町並みや区割りをよく残しています。これは、松崎町の特徴の一つだと思っています。建物が立て替えられていない、若しくは往時の建物の配置を壊して建て替えられておらず、自然に沿った昔の地形をよく残しています。開発が進むと、道の形を変えたり、何件かの家を纏めてマンションになったりします。日本の大半の地域ではそれが行われていますが、松崎町ではそれを免れています。


地形に沿った集落形成の痕跡を強く残している。

 滞在中はサイクリングをしていて、とても心地良かったです。それは、自然の地形に沿った道、街並み、山が残っている為、ストレスが少ないからだと思います。

 なぜ自然に沿った景観が心地よく感じるかのを、説明したいと思います。それは、視覚情報の量に起因します。人は新規の情報が多過ぎるのを嫌がります。それでいて、未知の情報量が少な過ぎるのも不快に感じてしまいます。例えば、未開のジャングルはストレス過多(=不安)ですし、同じブロック塀が延々と続くような景色もストレス(=退屈)を感じるのが人間です。人は、自らの安全が保障されていながらも適度に新規な情報が入ってくる光景を、心地良く感じます。

杉のみの景色と多様な樹木がある景色、心地よさが大きく違う。

 都市は街並みが退屈です。しかしながら、この国の山の多くは戦後植林された杉一色で、都市同様に情報量の少ない単一の景色になってしまっています。


松崎町は杉林が少なく(あっても山一つ杉と言った景色ではない)、それが昔のままの区割りで家が立ち並んでいる事によって、快適な景色を保たれています。

屋根や外壁は変わっているが建物の場所自体は昔のままの景色
地形に沿った道に並ぶ家。都市の伝統的建物とは違う配置が特徴的。


提言 芸術が松崎町にどう貢献できるかを考えました。

1.絵画コンクールの開催 現在はスケッチコンクールが参加費無料で開催されている。それを参加費を取り、その分、賞金も出す形式に変える。街に来る人を増やし、コンクールの度にメディアにもニュースとして取り上げてもらうことが期待できる。また、外の人が書いた松崎町を見る事により、街に対する自尊心の向上や、町の新たな魅力の発見にもつながる。

2.棚田を使った彫刻展 農閑期の観光客増加に寄与できるのでは、と思っている。展示スペースが膨大にあり、段差があり展示に向くこと、大型作品も遠くから見ることが出来ることが、棚田の利点。彫刻をされている方は搬入のために車を持っている方が多いので、松崎町に来やすいと思う。また、設置のために訪れた作家たちの宿泊も期待できる。

棚田町国際想像図

3.室戸洞でのイルミネーションイベント 複雑な内部構造を利用すれば、今までのイルミネーションとは違った光の演出化できると思う。

石切場ライティング想像図

4.町を美の観点から見直す。
折角の美しい景色も自動販売機や、看板の置き方一つで台無しになってしまう。非日常を味わいにきた観光客に日常を思い出させない細部までの拘りが必要だと思う。例えば京都では、コンビニなどでも景観を損なう派手な色の看板を禁止したが、それにより随分と街の景色が良くなった。町を「美しさ」の観点から見つめてほしいと思うし、それには芸術分野の人間が役に立つと思う。

自動販売機があるだけで、景観を損なう
プラスチックが目立っている。色を塗るだけでノスタルジックな景観が強調される。

まとめ

 滞在中に多くの町民の方とお話をさせて頂きました。
初対面でも打ち解けやすい性格の方が多く、
皆この町を良くしたいと熱意を持っておられ、
町長はじめ、行政側も率直で熱意があり。
観光資源がよく残っています。
先に挙げた2030松崎プロジェクトにて、「中毒性ある町」づくり と言う言葉に出会いました。
松崎町こそ、中毒性ある町になる潜在力を膨大に持つ場所だと思います。


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