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清水玲「肉チャーハンとスコリア丘」(2日目・後編)

稲取に戻って午前中の余韻に浸っていると、高低差400メートル弱、距離にして10キロほどの林道を歩いたからかお腹が空いてきた。藤田さんにおすすめのお店を訪ねると、伊豆稲取発祥の「肉チャーハン」をぜひ食べてもらいたいという返事が。藤田さん曰く、滞在している宿のすぐ近くにある「かっぱ食堂」と片瀬白田駅近くの「ふるさと」の2店舗が稲取肉チャーハンの双璧をなし、地元の人たちにとっても好みが分かれるらしい。ちなみに藤田さんは前者派で、荒武さんは後者派だという。あいにく「かっぱ食堂」は水曜定休だったので、隣町の白田まで車を走らせ「ふるさと」へ。

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「変わったチャーハン」という謳い文句の看板に若干の不安を感じつつも、外観からは名店のオーラが滲み出ている。11時半でお昼前だったが店内には地元の方々がすでにちらほら。壁面には有名人のサインや、テレビやメディアに掲載された記事がびっしり。ひととおりメニューに目を通しつつも肉チャーハン一択で注文。

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卵を炒めたチャーハンの上にとろみを加えた豚肉とキャベツの炒めもの。そして、うまい!香り、食感、とろみ、旨味のバランスが絶妙。この美味しさはB級グルメという言葉にはおさまりきらない。脳内は孤独のグルメ状態に。なるほど、肉チャーハン。これはぜひ滞在中に「かっぱ食堂」にも足を運びたい。

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せっかく白田まで来たので、海岸線に出て熱川より少し北側にある穴切湾へ。熱川温泉から北の海岸沿いの道の先に厚い溶岩流に囲まれた小さな湾に着く。約80万から20万年前の天城火山からの溶岩流が海まで達した末端が波浪により侵食され、下部にはいくつかの海食洞がある。

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海岸では波が絶え間なく働いているが、大きな波は大きな圧力で崖の割れ目に海水を注ぎ、岩を砕く。緩んだ塊は落とされ、上の岩石の下を切って崩壊させる。そして波は砕けた石をさらっていく。岩だらけの海岸に打ち寄せる波は割れ目を広げたり、岩石を掘って洞穴にしたりする。これが岬で起きると洞穴は反対側にもできて、やがてそれがつながって滞在初日に見たような岩のアーチになる。これもやがて壊れて孤立した離れ岩になり、いつかは砕けて根本だけになる。

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いま見ている風景は固定されたものではなく変化の過程であり、様々な諸条件との関係性のなかで少しずつゆっくりと形づくられている。火山噴火によって地形が生まれ、地形によって地理が生まれる。そして、人間界の諸事情が決まっていく。

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午後は少し時間に余裕ができたので、河津筏場の北に位置するプリン状の鉢ノ山へ。どこから見てもプリン状の鉢ノ山は大室山についで二番目に大きいスコリア丘で、約3万6千年前に噴火した伊豆東部火山群のひとつ。

鉢ノ山と稲取との位置関係

山頂に至る山道の途中スコリア丘の断面が観察でき、山頂が近づくにつれて落ちている石も大室山の山頂付近で見かけるような赤いスコリアが増えてくる。山頂の火口内には地蔵菩薩などの石仏群が祀られている。

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一昨年からの伊豆半島を巡る旅を通じて、地形や落ちている石や植生から風景の成り立ちを少しずつ読み取れるようになったことを実感する。風景には全て意味があり、その意味を自分で読むことができるようになれば目に映る世界は全く違ったものになる。

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この見ることと読むことの先にある世界の広がりは、作品制作や作品鑑賞にもどこか共通するものがある。私は旅を通してまだ到達できていない「風景」の獲得を期待しているのだろう。

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日暮れ前には稲取に戻り、夜は荒武さんと藤田さんと3人で地元の人たちで賑わう海鮮居酒屋「かもめ」へ。

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絶品すぎる魚介をかこみ、地酒を飲みながら午前中に行った白田硫黄坑跡や、稲取の街並みのこと、風景のこと、建築のこと、子育てのことなどたくさん話す充実した時間。ここでの内容については明日の街歩きやまとめの記事であらためて書きたいと思う。

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