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清水玲「まちを歩く」(3日目・前編)

午前中は荒武さんが主催する街歩きに参加した。 10時に今回のMAW滞在のホストである湊庵の荒武さんたちが運営するコワーキングスペース「EAST DOCK」へ。東伊豆海沿いの135号線から南東に巻くように突き出た岬の先端部分に位置するこのシェアオフィスからは、稲取港と伊豆の屋台骨である山々を見返すとができる。

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稲取には湊庵が運営する拠点が4つあり、「EAST DOCK」と、私が宿泊している宿「錆御納戸」の他に、シェアキッチンスタジオ「ダイロクキッチン」、そして本日からオープンした新しい宿「赤橙」が程よい距離で点在している。街歩きは、高低差があり変化に富む路地を抜けながら、荒武さんの語りとともにこの4拠点を廻る。

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あちこちの民家の玄関脇に設えられた洗い場は、もらった魚をすぐ洗うためのもの。言われてみれば宿泊先の「錆御納戸」にもあったあった。

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玄関先には「だんごや」「どんどろ」「浜かじや」「てっぺんや」と書かれた木札が。これらは同じ苗字の家を識別するための屋号で、一家の特徴を基に家に付けられる「あだ名」のようなもの。勘亭流書体でつくられているところがまたなんとも渋い。

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手作り感あふれる塀にはスコリア(塊状で多孔質火山噴出物)が。

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あちらこちらに猫たちも。

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消火栓の図案も街並みに彩りをあたえている。

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高台から眺めると民家の屋根の色も様々で、港町らしい風景は、個々の民家の個性の集まりであることをあらためて気付かせてくれる。

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新たな宿としてオープンした「赤橙」は庭が特徴的で、庭の柿と椿は建物と近所の人たちをつなぐ存在。室内の角度をふったウッドデッキや棚板は、視線が程よくコントロールされ、庭と建物との関係性を豊かにする。

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細野高原のススキを用いて実験的に制作しているという茅葺の塀。細野高原は、昔は茅葺屋根を葺くための茅場であり、地域の共有地として数百年にわたって山焼きと草刈りが繰り返されてきた。今では茅葺の利用もなく、毎年2月に行われる山焼きも縮小傾向にあるという。そんな細野高原のススキを用いたこの実験的な取り組みは、街と高原を再接続し、あらたな街の遺産を見出す可能性に満ちている。

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街を歩いていると地元の人たちが次々に荒武さんや藤田さんに声をかけてくる。彼らが稲取という場所とここに住む人たちと向き合い、信頼関係が気付かれていることの顕れだ。

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湊庵の取り組みがきっかけで、若い世代の来訪や移住が増えているという。いま見ている風景は固定されたものではなく変化の過程であり、様々な諸条件との関係性のなかで少しずつゆっくりと形づくられている。昨日海岸沿いを歩いた時の思考と今日の街歩きがつながった。


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