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心臓ちょっと、どきどきしてる、お酒のせい

 初めて呑んだアルコールの味を、その後しばらく心が美化し続けていた。

 どこにでもあるような安い居酒屋で出された、至って普通のカルーアミルク。ごろんと大きな氷を1つだけ浮かべたパステルブラウンはお酒らしくない、ほんのり甘くて上品な匂いを漂わせていた。
 ドキドキしながら呑んでみると、淡くて心地良いカフェオレの奥にきゅんと感じる微酔の火種。するすると喉に癒えていくその感覚を、何とか舌で絡めとる。

 ハタチを迎えた誕生日の夜。帰り道の夏風は妙に涼しく思えたが、まだ「酔う」という現象を上手く理解できないわたしは、ただ黙ってその冷涼に浸った。
 人がまだらになった山手線の車内、さすがにカルーア1杯じゃ酔わないだろう、と1人で言い聞かせながらカタカタと睡魔に揺られていた。


 あれからもうすぐ2年が経つ。そんな今日は思い立って昼呑み。家にあるカルーアの瓶を最後に開けたのがいつかなんて、もう覚えているわけがない。昨日の買い出しで200mLの小岩井牛乳を買っていたのは何の偶然なんだろうか。

 今、呑みながら書いている。実はお酒を呑むこと自体が9ヶ月ぶりだ。
 ああ、嘘。この前の春の静かな夜、帰りにコンビニでショート缶を買ってもらった(?)のが最後。

「炭酸苦手、コンビニのはだいたい無理」と言っているのに「残したら俺が呑んであげる」とほろ酔いをカゴへ。
 案の定わたしは呑めなかった。ちびちびと唇から咥内、喉、そして奥へ、小さな小さな粒子がスパークしていくのが痛かった。その刺激を知っているから、わたしの中はより繊細に感じとる。

 苦手と言っているのにいやいや呑ませておきながら、ほろ酔いを買った犯人はやっぱりというか、笑っていた。

初めて飲んだサイダーが
喉を刺した その向こうに
きみの笑う顔が見えた またあした さようなら
ドレミ / aiko

 わたしはずっと昔から好きだった歌を思い出し、呑み残されたほろ酔いはすぐに隣へ渡ってく。味はたぶん白桃だった。


 初めまして。マリナさんの企画を見つけたときには、すでに「今日呑もう」と思い立っていた気がする。

 ルールとして「誤字脱字はチャームポイkんとなので直さない」というのがあったんですが、ごめんなさい。わたしは全部直しています。なぜってだって、お酒を呑んだらほんの少しだけ悪いことがしたくなっちゃうお年頃。

 今宵、よい酔い。もっと牛乳たくさん買っておいても良かった。


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