見出し画像

この星で1番綺麗な涙

 ほんとは大丈夫なんかじゃないのに「大丈夫です」と嘘でも言わなきゃ心が死んじゃいそうなとき、人は本気で救いを求めているんだと思う。
「大丈夫です」と繕いながらも、驚くくらい素直に涙が零れてしまう。目は口ほどに物を言うから。

 でもそういうときの涙に限ってとても綺麗だ。

 純粋に、ただ純粋に流れる涙は心のままで、自分じゃ守りきれなくなった剥き出しの柔く脆いところを映し出す。
 羊水の中で丸まっている胎児のように、産まれたての赤子のように、本質的な人の弱さを危なっかしく孕んでいる。人は心が若いときほど美しく見えてしまうもの。

 だから泣いているほうは悔しくなってしまうくらいに綺麗な涙だ。

 白い夜空、黒い満月を背景にして透明の海が湧いていく。それがほろりと人間色の大地の上を伝って落ちる。

 綺麗な水は両掌で掬ってみたくなるだろうから、本気で救けを求める涙も誰かが気づいて救ってみたくなるように、綺麗な姿をしているのかな、なんて思った。

 もしこの星で1番綺麗な涙に出逢うことがあったら、わたしは迷わずそれを掬える人でありたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?