見出し画像

BELIEVE-信じていますか?-

 これは、「BELIEVE-日本バスケを諦めなかった男たち」のネタバレ感想ですので、まだ映画を見ていない方は戻る事をオススメします。


 いいですかー?
 この先はネタバレ記事になりますよー?
 あと私は比江島さんファンなので、ネタバレも比江島さん中心になりますよー?
 しかもまだ1回しか観ていないのでセリフは多少うろ覚えですよー?

 それでもいいよと言う方は、読んでいただけると嬉しいです。




 映画自体は2023W杯の日本代表の軌跡とあの夏を振り返ったインタビューで構成されています。佐古さんや田臥さんといった元代表選手から見た今の日本代表についても語られていて、映画の副題にもなっている「日本バスケを諦めなかった男たち」には勝てなかった時期も懸命に戦って次の世代に繋いでくれた彼等も含まれているんだと感じさせてくれます。実際に2023W杯の沖縄開催には2019W杯の自力出場が条件だったわけで、2019W杯の自力出場をもぎ取ったのは田臥さん世代だったと思います。その時から残っている選手は、当時は若手だった比江島さんくらい。比江島さんと同い年またはちょっと上の選手は2023W杯の強化合宿に呼ばれはしたものの、最後の12人のロスターに入る事はありませんでした。映画には最後の12人に選ばれなかった多くの選手達が登場しています。その人達の思いも全部背負って沖縄アリーナのコートに立つ12人には覚悟と自信が見てとれました。

「信じてますか?」
「目標は何ですか?」

 映画の中で、トム・ホーバスHCは何度も選手に問いかけていました。

「信じてます」
「アジア1位です」

 問われた選手達は自分に言い聞かせるようにキッパリ答えます。
 その中でも、トムさんの言葉に何度も頷く比江島さんの姿が印象に残りました。先にも述べましたが、比江島さんと代表を支えてきた同い年の選手達は最後の12人にはいません。後から知ったのですが、この時の比江島さんは「世代交代」という外野の声に晒されていました。本人が「俺についてこい」タイプでないことも、言いたい放題にさせていたのかもしれません。今までは選ばれて当然だった代表選考から、サバイバルになった今回の代表選考。インタビューでも「想像以上に辛かった」と漏らしています。それでも最終メンバーに残った影には、本人の壮絶な努力と意識改革があったのだろうと思わせられました。

 選手一人ひとりにフォーカスしたシーン、背番号順に富樫選手、河村選手と続く紹介映像は2人のスピード感を存分に活かしたカッコいい映像でした。次は#6比江島慎。期待して見ていると、カッコいいシュートシーンと一緒に練習中のほわほわ笑顔がインサート。

 は?かわいい...。

 いや、制作サイドもよくわかっております。「カッコいい」と「かわいい」のえげつない振り幅が比江島慎の魅力の1つなのだと。
 その後も練習中や試合後のほわほわした比江島さんが大スクリーンに映る度に「…かわいい」という声を噛み殺していました。このほわほわしてる時は大抵川真田選手が近くいるんですよ。まこマイキー最高です。ありがとうございます。
 フィンランド戦で川真田選手のスクリーンを使ってレイアップシュートを決めた時のことを指して「川真田のいる方に行けばいい」みたいな事を比江島さんが語っていて、2人の信頼関係が垣間見えました。W杯後の記者会見で「彼は僕のメンターですね。ありがとう、こうや!」と言っちゃうだけの事はあります。その後もベネズエラ戦で負傷した川真田選手の手にそっと触れている比江島さんとか、比江島さんのシュートを佐々ACと抱き合い喜ぶ川真田選手とか、心和むシーンがちょいちょいありました。

 試合振り返りのシーン。ドイツ、オーストラリアに負けたものの、手応えを全員が感じていたようでした。実際に選手みんなが「誰も下を向くことはなかった」と語っています。フィンランド戦では、前半の比江島さんの活躍にも触れてくれていて嬉しかったです。この試合は後半に爆発した河村選手がヒーローでしたね。

 そして、あの忘れられないベネズエラ戦。ファウル4つの比江島さんを第4Q最初からコートに戻した事を、トムさんは「ギャンブルだった」と語りました。勝てると信じてはいたけど、これ以上点を離されるのは避けたい日本。そのためにコートに戻された選手が比江島さんでした。ナレーションでは「もっと残り時間が少なくなってから戻すのが普通」と解説していました。だから「ギャンブル」だったのでしょう。
 トムさんの語る「ギャンブル」は2つの意味合いがあると思いました。
 1つは「逆転できるかどうかはわからない」という事。日本の武器はスピードとスリーポイント。しっかり守って早い攻撃と確実なスリーポイントで勝つのがトムさんが目指すバスケです。比江島さんが代表に選ばれた理由はディフェンス力とスリーポイントシュートの成功率の高さだと思っています。ディフェンス力はあまりフォーカスされていませんが、4つめのファウルもベネズエラの決定的なシュートを止めたファウルでした。オフェンスチャージングと紙一重だったファウル。皮肉な事にこれによって、第3Qをほぼ休めた比江島さんはフレッシュな状態でコートに戻りました。本人は「練習からシュートタッチが良かった」と語っています。トムさんもそれを感じ取っていたからの再投入だったのかな。「マコはやってくれる」という信頼。そして、その信頼に比江島さんは見事に応えました。
 そして「ギャンブル」の意味合いのもう1つは「比江島さんが5ファウル退場してしまった場合の士気の低下」だったのではないかと思いました。
 比江島さんは自他共に認める「リーダーシップをバリバリ取るタイプ」ではありません。それでも比江島さんは「エース」と呼ばれる選手で、リーグでも代表でも苦しい場面でチームを救うシュートを何度も決めてきました。渡邊選手がインタビューでも話していますが「マコを止められる選手は世界でもいない」というように、他の選手達からも絶対的な信頼を寄せられています。今回が代表初選出になった若い選手達からも「マコさん」と呼ばれ、イジられ慕われています。このチームにとって比江島さんは精神的支柱でもあったのかなと思うんです。それも潜在的な部分での。目に見える形での精神的支柱は渡邊選手や富樫選手。彼等は言葉でもプレーでも力強くチームを引っ張っていました。それは誰が見ても明らかでした。一方の比江島さんはチーム最年長でありながらも、顔にクリームを塗りたくられ、シューズに空のペットボトルを入れられ、インタビューを「巻きで」と催促され、シュート練習ではボールを奪われ…最年長の威厳はほぼありません。それでも、後輩が懐いて声をかけるのは比江島さんで、東京五輪を共に戦った選手達が最後にボールを託すのは比江島さんなんです。先頭で引っ張るのではなく、しんどい時に振り返ると最後尾でニコニコ笑って「大丈夫だよ」と言ってくれるような人。そこに居てくれるという安心感。そんな選手なんだと思うんです。そしていざとなったら、やる時はやる。比江島さんがコートで見せる覇気は「この人が同じチームで良かった」と思わせてくれるものだと思うんです。だからこその「ギャンブル」。比江島さんが5ファウル退場となった時、チームの緊張の糸が切れてしまうかもしれないから。依存とかではなく、無意識下での信頼を寄せられている選手だからこそのデメリット。
 トムさんの言う「ギャンブル」の結果は、日本代表に微笑みました。トムさんが比江島さんを信じて、チームメイトも比江島さんを信じて、その比江島さんはエグいプレーで応えました。比江島さん自身、あの4Qは自分とチームを信じきっていたのだと思います。それこそスラムダンクの三井寿のように。山王戦のミッチーほどヘロヘロではありませんでしたが、仲間がスクリーンをかけてくれると信じ、フリーになった瞬間を見逃さない仲間がいると信じ、放ったシュートが決まると信じ、必ず勝てると信じてコートに立っていたように見えました。

 カーボベルデ戦の序盤はベネズエラ戦の勝利の勢いのまま若手が引っ張り、日本ペースで試合が進みます。しかし、追われる展開という初のプレッシャーからか徐々に点を詰められてしまいます。なんとか勝ちきった時、最後にコートに立っていたメンバーの中には比江島さんがいて、そこにトムさんからの信頼を感じさせられました。歓喜に沸くチームの輪の中の比江島さんはあのほわほわした顔で笑っていました。

 世界に対して一勝したい...。

 日本のエースと言われ続けてきた比江島さんの切実な願いと責任感、そしてそれが報われた瞬間をスクリーンで見て泣いてしまいました。

 今日は七夕。パリ五輪に向けて国内最後の強化試合が行われます。誰よりも頑張っている人達の努力が報われて、ほわほわな笑顔が見られるようにと星に祈ってtip offの時を待っています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?