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お守り


目覚ましをかけることも忘れ、気づいたら始業の30分前だった。あぁ、今日が在宅勤務でまだ良かった、と思った。

一丁前に寝坊しておきながら、目覚めと共に興奮と余韻が再び襲ってきて、前日の夜のこと以外何も情報を入れたくない、上書きしたくないと身体が言っていた。記憶と痺れと目頭の熱さが遠ざかっていくのが嫌だった。

2024年2月19日、朝は仕事にもイマイチ身が入らなかった。やるべきことがたんまりあるのに、一夜明けても放心状態でなんだかぼんやりしてしまう。

東京ドームの反響気味の音響ニュアンスそのままに、『おともだち』と『Bittersweet Samba』と『Orange』と『Pop Virus』が脳内で繰り返されていた。
仕方がないからどうせなら身体に染み込むまでこの4曲を聴きながら、ゆったりと仕事モードにスイッチしていこうと試みた。

しかし聴き始めると、ウェルカムムービーが脳裏に蘇ったり、DJ/MC. wakaを思い返したりしては、再び目頭が熱くなった。初めからこうなることはわかっていたはずだろう?

あぁ、今日有休取れば良かったな、と後悔した。
あの体験をもっとゆっくりじっくり味わいたかった。
まだ何も咀嚼できてないじゃないか。
ただ若林さんがラスタカラー号に跨ってカーブを超スピードでクレイジーに疾走する姿や、春日さんが饒舌になりつつもニンマリ顔で楽しそうだったことが、とてもとても愛おしく、そのあたたかさだけが小さく灯ってる。

だけど、きっと今日休んでいたら病んでたんだろうなとも思った。これから私はどうしたら良いんだろう、とか言い出すに違いない。
今は歩みを止めない方がいい気がした。


そんな日に限って、良いのか悪いのか、仕事は時間が経つほどに多忙を極めていった。音の情報は、頭を使う作業をする際には集中を妨げるので、4曲ループは途中で停止した。
結局いつもより遅い時間まで働いて、気づいたら脳内はすっかり仕事の情報で溢れ返って、昨日の東京ドームの感触は侵食されていた。

あたたかく小さな灯火は、更に小さくなっている。

あぁ、どうかこの灯火が消えませんように。
消えてしまうことが怖くて仕方ない。
消えてしまっても、私はきっと平気で生きていくのだろう。
こんなにも心揺さぶられて、きっと人生でそう多くない時間だっただろうに、これが呆気なく消えてしまうのが怖い。


そう思いながら今これを書いている。


2024年2月18日。何度も聴いたこのフレーズ。
冒頭から涙が止まらなくて、そして声を出して笑って、感嘆の声は漏れ、拍手でこの歓びを伝えようとした‥‥。

カッコよかった。
イカれてて、おふたりとも超楽しそうで、優しくて、愛情に溢れてて。


最高にトゥースだった。


やっぱり、有休を取っていなくたって言い出さざるを得ない。
どうしたらトゥースに生きられるだろうか。
自分の脚を使って経験して、その間の機微を大切に感じながら時を生き、面白く話しているその姿、本当に尊敬する。
自分もあんな人になりたいと願いながら、それに見合う行いが日々できているのだろうか。

仕事に身が入らないなどと言っている場合ではないし、小っちゃなことにモヤついている場合でもないのだ。いや、モヤついても、彼は悩み続けてそれでもどうにか歩く道をもがいて見つけて来たのだろう。

同じようにやろうとするなと自分に言い聞かせつつ、それでもあんなふうにカッコよくありたいと思ってしまう。

2024年2月18日がハレだったとしたら、2024年2月19日からの日常はケ。
このケを如何に地道に積み上げるか。
一足飛びにハレに到達しようなどと思う方が間違ってる。
なんだか久々に、焦点を定めて生きてみたくなった。



帰り道、混雑の中ゆっくりと歩みを進めて駅へ向かうリトルトゥースたち。騒がず静かに歩いていた人が多かったけれど、秘めた興奮がいっぱい見えた。それぞれに受け止めて噛み締めてるんだと勝手に想像したらなんだかまた泣けてきた。

電車を何度乗り換えても目に入ってくるラスタカラー。日付を超えてから最寄駅に着いた時も、最後の最後までリトルトゥースが同じ車両に居た。都会から外れた場所にもこれだけ同じ時間を共有した人たちが存在していて、違うことを感じて、そしてまたひとりの時間に戻っていくその様を目の当たりにしては、刹那を感じた。

ふたりと、ひとりと、ひとりと、ひとり‥‥。
ひとりに戻った時にも、あの場所であの時間を呼吸していたのだと、確かに感じられる。
ひとりだけど、ひとりじゃなくて、でもやっぱりひとり。
それでも、また生きていけると感じる。
地道に泥臭く生きた末にまた会おうや!と勇気付けてもらえた気がする。


お守りになった。
好きになってよかった。
同じ時代を生きていてよかった。
また土曜日が来るということが、もっと大きなお守りだ。


トゥーーース!☝🏻


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