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君子は豹変す - Google Cloud Next 2024 Recap

4/9 - 11の期間、ラスベガスでGoogle Next 2024が開催された。今回もいろいろと大きな機能追加の発表があり、多くのメディアで取り上げられている。一般的にはやはり生成AIまわりの注目度が高いだろう。筆者も、データベースエンジニアをしていたこともあり、Gemini in BigQueryによる自然言語からクエリ生成を行う機能などは非常に気になる機能だ。

ペンタゴンへのメッセージ

だが、Googleのビジネスにとって最もインパクトの大きいものを挙げろと言われれば、それはあまり注目を集めてはいない一つの発表にあると思われる。Googleの公共ビジネス部門が提供するサービスGoogle Distributed Cloud Hosted(GDC Hosted)が、ペンタゴンからシークレットとトップシークレットの認可を受けたという知らせである。

本日、Google Cloud Next で、Google Public Sector の新しい重要なマイルストーンを発表いたします。このたび、Google Distributed Cloud Hosted(GDC Hosted)が、米国インテリジェンス コミュニティのトップ シークレットとシークレットのミッション、さらに国防総省(DoD)のトップ シークレットのミッションをホストする認可を受けました。この認可は、Google Public Sector が安全な最先端のテクノロジーで政府機関を全力でサポートしてきたことの証です。

Google Public Sector がトップ シークレットとシークレットのクラウド認可を獲得

「全力でサポート」ねえ・・・と思わず呟いてしまう理由はこの後で述べるが、ともあれこの認可によって、Googleはペンタゴンや諜報機関の様々な案件に応札できるようになった。これがどのようなインパクトを持つかは、ペンタゴン(DoD)の消費するIT予算の大きさを考えると理解できる。実に連邦政府のIT予算の半分近くを一つの省庁が消費するのだ。

ペンタゴンはお化け官庁

これだけの予算を持っていることからも想像されるように、ペンタゴンの仕事は大規模なものが多い。100億ドル案件として注目を集めたJEDIでは、Googleは早々と撤退を表明していたが、今後はAWSやAzureと伍して戦っていくぞ、という決意表明である。数兆円規模の市場が待っているのだから、気合も入るというものである。

プライベートクラウド対応 - 君子豹変

このシークレットやトップシークレットというのが具体的にどんな中身なのか、というのが気になる方も多いと思うので、少しネットワークのアーキテクチャを解説しておこうと思う。この両者は、インターネットから隔絶された閉鎖的環境に構築されるプライベートクラウドである。ペンタゴンの情報システム部門であるDISAが出しているネットワーク図を見てみると、その厳重さが分かる。

シークレットとトップシークレットはインターネットからアクセス不可

このトップシークレットとシークレットでどのような情報が扱われるかは、あまり具体的に明らかにされていない。政府機関職員の記録、未解決のサイバー脅威に関わる情報、地図に使用される地理空間データなどが挙げられているが、それだけではないだろう。CIAやNSAといった諜報機関も利用することを考えると、相当にセンシティブな情報が扱われるものと思われる。

GoogleもGDC Hostedの説明の中で、インターネットから隔絶された環境にホストされることを明言している。

GDC Hosted は、インターネットから隔離されており、インフラストラクチャ、サービス、API、ツールを管理するために Google Cloud や公衆インターネットへの接続を必要としません。インターネットから永続的に分離された状態を維持するよう構築されています。

Google Distributed Cloud Hosted

なお、Googleはこれまで政府専用のプライベートクラウドを用意することに対しては否定的な態度を取ってきた。以前のエントリでも触れたが、その主張を簡単にまとめるとこんな感じだ。

  • 政府専用クラウドなんかいらん

  • FedRAMPのようなセキュリティ認証基準もいらん

  • VPNもいらん

  • プライベートクラウドはパッチ適用が遅れがちで逆にセキュリティが甘くなる

  • 政府も普通の民間クラウドを使えばいい。やればできる

これだけ言いたい放題いっておいてよくペンタゴンに「お仕事くーださい」と言えたものだな、と感心してしまう。門前払い食らわせられるのも当たり前である。しかし、過去と言うことを180度変えて平然としていられるのが米国人の強さである。この面の皮の厚さというか手首くるくる具合はいっそすがすがしくて見ていて惚れ惚れする。なお、AWSやMicrosoftは表立ってこんな風に官公庁を批判することはしない。比較的素直に政府方針に従っている。特にMicorosoftは伝統的に公共部門に強く、一度はJEDIを受注したことからも分かる通り、ペンタゴンとの関係も親密である。

ともあれ、これでAWS、Microsoft、Googleというクラウド御三家がいずれもペンタゴンの案件を取っていく体制が整ったわけで、競争も促進されることになる。政府としてもようやく待っていた最後のピースが嵌まった、というところだろう。現在米国の議会ではマルチクラウド促進法案も審議されており、意図的にこれらクラウドベンダを競争させていこうという方針で政府も議会も一致している。

米国人というのは本当に競争が好きで、とにかく競争させておけばよい結果が出ると素朴に信仰しているところがあるのだが、それが様々なジャンルを活性化させることに繋がっているのも事実である。今後はパブリッククラウドの寵児だったGoogleの政府向けプライベートクラウド対応にも目が離せなくなりそうだ。パブリッククラウド至上主義の人から見るとこれは後退に見えるかもしれないが、良くも悪くも米国のクラウド最前線はこのような状況なのである。本稿が読者にとっての簡単な見取り図になれば幸いである。


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