AWS Outpostsに見る軍需産業とITの結びつき
先日、XでAWS Outpostsの使い道が分からないというツイートに対して「軍の前哨基地で使うことを想定している」というコメントをしたところ、大きな反響があった。Outpostsを何に使うのか疑問に思っていた人は思ったより多いようだ。
確かに、Outpostsの日本語サイトを見ても、軍需関連の単語は一つも出てこないので、AWSとしても日本向けには意図的に避けているのだと思われる(実際、日本が戦闘のために軍を国外に送る機会はまずない)。日本で軍需産業と思われてもあまりマーケティング的にプラスにはならない(一応プレスリリースはされている)。だがそのせいで、日本のユーザからは「これはいったい何なのだろう? 何に使うのだろう。AWSはオンプレミスに進出でもするのだろうか。今さらアプライアンスもないだろうに」という頭にクエスチョンマークが三つくらい浮かんでしまう事態となっている。
米国本国では、AWSはもっと正直で明快である。公式ブログで軍に対する貢献を謳っている。非常にわかりやすくOutpostsの目的用途について語っているので、以下に訳出した。Modular Data Centerの「Modular」という単語のニュアンスが難しいが「簡単に組み立てられる」くらいの意味だと思われる(モジュールの派生語)。また「戦術的エッジ(tactical edge)」はネットワーク接続が制限されていたり、隔絶した環境を意味する。主に最前線の基地などを指す軍事用語である。もともとoutpostという英単語が「前哨基地」という意味なのだ。
なお、Outposts自体になじみがない人は以下の動画を先に見ておくと理解しやすいと思う。
国防総省のためのモジュラーデータセンター
Amazon Web Services(AWS)は本日、Joint Warfighting Cloud Capability(JWCC)契約に基づき、AWS Modular Data Centerを米国国防総省(DoD)に提供することを発表しました。国防総省は2022年12月、AWSが国防総省のJWCC契約に採用されたことを発表しました。JWCC契約は、エンタープライズから戦術的エッジまで、あらゆる分類レベル、あらゆるセキュリティ・ドメインでクラウド・サービスと機能を利用できるように設計されたマルチベンダー調達手段です。AWS Modular Data Centerにより、国防総省はAWSインフラを組み込んだ自己完結型のデータセンターをインフラが限られた場所に配備できるようになります。
国防総省は、現場での重要な通信と調整を可能にするため、大量のデータを処理し、低遅延が求められる最新の軍事アプリケーションに依存しています。大規模な軍事作戦であれ、危機対応活動であれ、重要な物資や部隊の輸送調整であれ、戦術的エッジでのデータへのアクセス、処理、共有は、ミッションの成功にますます不可欠になっています。しかし、リモート環境では、大規模なデータ処理や迅速な意思決定をサポートするために必要なクラウド機能へのアクセスは困難です。従来は、信頼性の低いネットワーク接続に苦労しながら、戦術的エッジでデータセンター・インフラをサポートまたは構築する方法を見つけ出すのに時間とリソースを費やしていました。
この難題に対処するため、AWS Modular Data Centerは、DDIL(Disconnected、Disrupted、Intermittent、Limited)環境を含む、必要な場所に大規模ワークロードをサポートするコンピュートとストレージ機能を導入する能力を国防総省のお客様に提供します。AWS Modular Data Centerは、限られたデータセンター・インフラに依存したり、ゼロから構築したりする代わりに、顧客のデータセンター規模のワークロードをサポートする、コスト効率に優れた自己完結型のモジュール型データセンター・ソリューションを提供します。このソリューションにより、防衛分野のお客様は、ペタバイト級のデータをリアルタイムで安全に保存、分析、解釈し、最も隔離された環境で軍事的な優位性を得ることができます。
AWS Modular Data Centerには、内部ネットワーク、冷却、配電設備などの高可用性データセンターインフラがあらかじめ組み込まれています。コンピュートとストレージ機能を展開するために、AWS Modular Data CenterはAWS OutpostsおよびAWS Snowball Edgeデバイスの両方をサポートしており、顧客の要件をサポートするためにモジュラーデータセンターユニットを追加導入することで拡張可能です。AWS Modular Data Centerを利用することで、顧客はAWSのサービスとAPIを利用して、事実上どこからでも低レイテンシーのアプリケーションを実行できます。このサービスは自己完結型のソリューションであり、顧客サイトにデプロイされた後は電源に接続し、AWS Outpostsを使用する場合はネットワークに接続するだけで使えます。DDIL環境のようにネットワークが制限されていたり、利用できなかったりする場合、Snow Familyデバイスで構成されたAWS Modular Data Centerを利用することで、顧客はAWSサービスの限定されたサブセットを使用してワークロードを実行することができます。また、ネットワーク接続に衛星通信を使用するオプションもあります。さらに、AWS Modular Data Centerには、顧客がモジュール型データセンターのサブシステムをプロアクティブに監視し、シンプルに運用するための管理システムが付属しています。
AWSのディフェンス・ビジネス・ディレクターであるリズ・マーティンは、次のように述べています。「デジタルな戦場が進化し続ける中、国防総省のお客様は、世界中のDDIL環境を含む戦術的エッジでのクラウド機能へのアクセスをますます必要としています。AWS Modular Data Centerにより、データセンターを、遠隔地での構築や管理が困難な固定インフラから、使いやすく、セキュアで、コスト効率が高く、ミッションが要求する場所であればどこでも大規模なコンピュートやストレージのニーズに対応できる包括的なサービスに変えていきます。」
各モジュラーデータセンターユニットは、複合一貫輸送用に設計・製造された頑丈なコンテナを使用して構築されており、船舶から鉄道、トラックまで、さまざまな輸送手段で使用することができます。軍用貨物機による空輸も可能です。
翻訳は以上である。前回のエントリでも触れたが、米国では軍がうなるほどの予算を持っているので、IT産業においても軍需が一大分野になっている。これは日本と大きく異なる点だ。また、日本に比べると軍や軍人の社会的ステータスが高く、軍に貢献することは栄誉なこととして捉えられている。軍人は様々な社会的サービス受ける際にも優先的に扱われることが多い(たとえば空港のレーンでも軍人専用のレーンが用意されていたりする)。
これ技術的にはすごいけと何に使うのだろう? という米国のソリューションを見たときには、まず軍需を考えてみるとうまく理解できるかもしれない。