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「インパクト投資 社会を良くする資本主義を目指して」を読んで

今回は「インパクト投資 社会を良くする資本主義を目指して」を読んだ感想を書いていこうと思う。

まず初めに、本書ではインパクト投資を「経済的リターンとともに、社会的・環境的なプラスの成果を達成することを強く意図する投資」と定義している。時にインパクトをより重視し経済的リターンを二の次とする、と定義するファンドも存在するが、ここでは経済的リターンと社会的リターンを同じ重みで追求する、としており、私が目指しているところと一致するため読んでみた。

インパクト投資や、さらに広くソーシャルビジネスと言ったときによくある反論は、利益と社会的インパクトは相反するものであり、企業が行うサステナビリティに関する活動はあくまでマーケティングである、という声である。この類の発言は私が通っていたMBAのクラスでも見られた。こういった意見が出てくる背景としては、一般的に環境配慮型のマテリアルコストが高かったり、管理コストをしっかりかけたりしているので、その分利益を圧迫するというものであり、そういった相反を引き起こしている企業が一定数存在するのは事実だろう。しかし私はサステナビリティへの取り組みが企業の競争優位性と一致していないことが原因ではと考えている。例えばアパレル業界のサステナビリティの取組で必ずと言っていいほど取り上げられるパタゴニアでは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」をミッションに掲げ、ジャケットをはじめとする彼らのプロダクトからその製造プロセスまで、一貫して人・環境への配慮がなされている(参考)。彼らの製品は競合他社と比べると割高なのだが、消費者は彼らのミッションに共感し、プレミアム価格を支払っているのだ。消費者意識には様々なデータがあるが、60%以上の消費者がサステナビリティ志向の製品の購入に意欲的である。このような企業においては、社会的インパクトを自社の競合優位性に置き、経済的リターンへと繋げることに成功している。

こと投資という目線ではどうだろうか。本書では例として犯罪率の低下に向けた事業が取り上げられている。出所したばかりの人のケア等の事業そのものは一見慈善事業であり、収益化は難しく見える。しかしよりマクロな視点においては、再犯率の低下、すなわち再犯による被害額や刑務所におけるコストの低下に繋がり、社会全体としてはコスト減となる。そして従来刑務所のコストに充てていた税金を社会的インパクトのある事業に回すことによってトータルのコストを下げようではないか、といった発想が生まれる。こういった考えの基、インパクト投資においては先行投資するSIB (Social Impact Bond) ファンドとは別に、成果連動支払いをするアウトカムズ・ファンドもステークホルダーに加わる場合がある。従来のVC/PEとの比較におけるインパクト投資の一つの特徴として、事業当初より社会的インパクトが意図されており、その効果を測定することが挙げられる。この計画されたインパクトをモニタリング、すなわち定量評価できる形にKPIをデザインし、測定することが重要となってくる。そしてKPIの達成具合い、ニアリーイコール社会的インパクト、ひいてはそのインパクトによってもたらされる社会全体としての経済的インパクトの一部を社会活動主体がおすそ分けとして受け取る、というスキームになっている。(ちなみに、アウトカムズ・ファンドが存在せず、従来のVC/PEと同様のスキームも存在する。) KPIデザインについては奥が深い領域なので、また別ブログにて紹介したいと思う。

ここで、似たような概念であるESG投資との違いについても簡単に触れておく。インパクト投資と比べてESG投資はあくまで従来のVC/PEと同じく経済的リターンを追求する。VC/PEの差分としては、対象企業にEnvironment, Social, Governanceの観点でネガティブ要素があれば長期スパンでリスクがあるとみなし、当該企業の企業価値をディスカウントする。いくつかの研究で外部機関によるESG格付けが高い企業が高い経済的リターンを実現できていることが既に明らかにされており、1.2兆ドルを運用する世界最大の年金運用ファンドである日本 (GPIF)においても2020年3月末時点で11.3%をESG投資に充てており、昨年度の6%と比較すると注目度が高まっていることが分かる。(参考)一方でインパクト投資では、ESGがネガティブスクリーニングの役割を果たしているのに対し、プラスのインパクトまで追求する。そして生み出したインパクトを測定する、という2点で異なる。ESG投資と比較してより社会的インパクトを追求していることがわかるだろう。

日本におけるインパクト投資残高は2021年度には1兆3,000億円と前年度の2.5倍以上の推移を見せており、非常に盛り上がっている。(参照)私はこの成長が今後も続くと信じているし、その一助になりたいと考えている。

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