量にこだわるか、質にこだわるか
ぼくが「定時退勤」というワードを推しているのは、単純にその方が多くの先生方に刺さると思ったからです。ここでいう定時退勤とは、仕事時間=仕事量の削減を目的にしています。これだと、多くの方がイメージしやすく、また達成度も計りやすいですよね。
しかし、こと働き方改革という文脈で言えば、これは不十分だと言わざるを得ません。本来であれば、ぼくらが働くために必要な議論とは「量」ではなく「質」に関することのはずです。働く事への質的議論とは、例えば「どうして教員として働くのか」とか「教育活動によって、子どもたちに何を与えるべきなのか」といった抽象度の高い問いへ向き合うことです。今回は、その質に関する話をしてみようと思います。
組織の中で一番「質」にこだわるべき人は、その組織のリーダーです。なぜなら、リーダーは他の人たちが共感し、能動的に動きたくなるようなビジョンを掲げる存在でなくてはならないからです。逆に「量」にこだわるリーダーは、どのように仕事を効率的にこなすかという方法論にはこだわりますが、そのビジョンが共感されるものではないので、他の人々の仕事はどんどん苦痛を伴うものになってきます。
ここでは校長先生という立場から、典型的な「質型リーダー」と「量型リーダー」の例を、挙げてみます。
① 質型リーダー
・ビジョン:学校をみんなにとって楽しい場にしよう!
・なぜこのビジョンなのか:日々の生活に「楽しさ」を与えることで、様々な教育活動にも積極的に関わるようになり、しいては学力向上や安心安全な環境づくりにもつながるから。
・方法:各先生方の個性や発想を生かし、試行錯誤してやってほしい。もちろん、サポートが必要なときには全力でお手伝いします。
② 量型リーダー
・ビジョン:子どもたちの学力を上げよう!
・なぜこのビジョンなのか:本県は学力調査で学力が低いことが明らかになったから。
・方法:毎日朝の時間に10分間の補習をする。授業ではグループ活動を取り入れる。ICTを活用した公開授業を全員1回は行う。等々
これらを見ると明らかですが、量にこだわるリーダーは、ビジョンが「学力」という一点においてのみフォーカスしており、方法についても非常に限定しているので、先生方が試行錯誤したり創意工夫したりする余白が少ないのです。これでは、言われたことをそのままやるだけという思考に陥ってしまうので、ラクではあるかもしれませんが仕事への楽しさは失われてしまいます。一方、質にこだわるリーダーの方は、「学校を楽しく」という抽象的でみんなが共感できるものになっています。方法はおまかせ状態なので創意工夫の余白が非常に大きくあります。ただ、それだと経験の少ない若手は混乱してしまうので、きちんとサポート体制を敷く必要はあります。
もちろん、各学校とも「学校教育目標」等でビジョンが掲げられているはずです。しかし、学校教育目標は前年度からの踏襲が9割なので、どちらかというと校長先生の普段の言動から感じる学校へのビジョンが「共感し得るものかどうか」が大きなものだと思います。つまり、大事なのは「ビジョンがあるかどうか」ではなく「ビジョンが共感できるものかどうか」です。
ちなみに、例で挙げた質的リーダーのビジョンである「学校を楽しく」には、子どもだけでなく大人=教職員も含まれています。つまり、子どもがいかに楽しくても、先生たちが仕事に対して楽しさを覚えていなければ、それは十分に達成していないと評価するわけです。ここを伝えることで、共感できるビジョンを明確に打ち出すことができると考えています。
と、ここまで学校運営を例に挙げ「質」「や「量」に関してはとくに「ビジョン」が大切だという話をしてきました。定時退勤の文脈で言えば、量にフォーカスして定時退勤を実現したとしても、先生方が幸せに働けていなかったら、それは働き方改革の失敗例です。逆に、先生方が毎日幸せに働けていたら、残業が増えてもなんの問題もないとぼくは考えています。
よく誤解されがちなのですが、ぼくのビジョンは「先生方全員を定時退勤させる」ではなく「先生方が、残業してもしなくてもいい職場環境を実現する」です。なので、刺さるワードとして定時退勤を推してはいますが、ビジョンとして掲げているのは先生方のWell-being(幸せ)です。
今回はかなり抽象的な話になってしまいましたが、あらゆる教育活動において「共感できるビジョンを掲げる」ということが重要であるということが伝われば幸いです。それが働き方改革の大きな主軸になるし、先生方の仕事の在り方にも影響してきます。
また、今回は学校という組織のリーダー=校長先生を例に挙げましたが、これはそのまま、クラスという組織のリーダー=担任の先生という風に置き換えて考えることもできます。ぜひ先生方も、子どもたちに共感できるビジョンを掲げて、楽しく仕事をしていきましょう!
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