竜とそばかすの姫観たよ【感想レポート】
竜とそばかすの姫観ました。いやあぁぁ…めっちゃ良かったです。過去のスタジオ地図シリーズを履修しているのでハードルは高めだったと思うのですが、それを軽く飛び越えていって棒高跳びしてる?って感じでした。上演30秒で心が持っていかれました。今回はその感想と考察を書くので、以下ネタバレあり。
1. スタッフ・キャスト陣が好みすぎた
主人公の声を演じた中村佳穂さんは今回で初めて知ったのですが、透き通っていてずっと聴きたくなる声でめっちゃ心地よかったです。姫というより、女神に近いような、水のような声でした。
主人公の親友役・ヒロちゃんを演じたのは、YOASOBIの幾田りら(いくら)ちゃん!中村さんの声が水だとすれば、いくらちゃんは葉?丸くてマットな感じで、可愛いんだけど静観してるって感じでした。いくらちゃん、お芝居もできちゃうなんて困ったもんだよ…。それ以外の登場人物もみんな愛らしくて素敵でした。
そしてサントラ!デジタルゴリゴリの作品なので、サマーウォーズっぽくエレクトリックな感じで来るかと思っていましたが、クラシックな感じで腹の底に突き刺さりました。それもそのはず、『大豆田とわ子と三人の元夫』の作曲家・坂東祐大さんも参加していらしたので、オケで来るよな…と。
2. リアルすぎる複雑な心情
スタジオ地図あるある、怖いほど分かる登場人物の発言。発言そのものへの共感というより、「こう思ってるなら、こう返す」が桁違いでリアル。バケモノの子で言えば、図書館で騒いでいた高校生のシーン。今回で言えばしのぶくんを巡る女子の返信。鈴に対する「ごめんね; ;」の嵐とかルカに対する「応援してる°˖✧*」とか。それは本音なのだろうか?
世論に目を向けると、ユーザーがUの内外で起こる出来事にとても敏感に、過激に反応している世間の姿が印象的でした。「歌え」「消えろ」「下手」「迷惑」。Uの世界に法律は無く、「秩序を乱す者には制裁を」という声から、いわゆる特定厨のような人々が正義と銘打って有害とみなされたA’sを”アンベイル”、つまり個人情報を晒す。竜の背中にある痣とタトゥーを紐づけたことから、デジタルタトゥーを表しているのではないでしょうか。竜の本当の姿を考えると、果たして正義は正しかったのでしょうか?それに賛同する人達は何を思っていたのでしょうか?そうなれば、正義と憂さ晴らしとの違いは何?批判と誹謗中傷の違いを理解してる?
鈴の母に対する批判の声も、同じことが言えると思います。私は鈴のお母さんの行動は無責任だと思うけど、それに対して誹謗中傷することもまた、無責任だと感じました。
SNSが普及したことで対人関係が薄れ、他人も自分自身も、本当は何を思っているのか、その上で何故その言葉を選んだのか、どんどん見えにくくなっている。その一方で、誰もが声を発することのできるUの世界で、より鮮明に”世間の声”が聞こえてくる。それを、多様性や平等などという言葉で片付けていいのでしょうか?
最近は世間の声に押されてルールや法律が簡単に変えられていると感じます。制度の狭間で困っている人を助けるため、差別をなくすために早急な対応策を打つのはもちろん良いことだと思いますが、それは同時に「被害者である不運を嘆けば、簡単に世の中を変えられる」と思わせる効果も含んでいると思います。誰もが自分の意見を通したいがために、自分を被害者とし、誰かを加害者と位置付ける。ルールの改正は、個人の不運を嘆いて行われるものではありません、社会の不正を正すために行われるものだと思います。どこかのドラマで聞いた「人が人を裁くんじゃない、法が人を裁く」というセリフ。それが今、私達の感情論で崩れつつあるのではないかと感じました。
3. 敵は誰か?
サマーウォーズと似た世界観を持った『竜とそばかすの姫』でしたが、大きな違いの一つはAIの存在でした。サマーウォーズではラブマシーンが敵として立ちはだかり、デジタルに依存することやAIが持つ力の膨大さを描いていましたが、今回AIはプリキュアの妖精的なポジションでした。サマーウォーズ公開当時(2009年)は脅威として認識されていたAIでしたが、目先の脅威は私達の内にあり、AIは人の生活を助ける存在だという、時代の流れを感じました(齢20)。
4. 鈴(bell)/ Belle/ veil
鈴がUのアカウントを登録する際に、本名からBellと名乗りました。その後、端麗な姿と美しい歌声から、フランス語で「美人」を表す”Belle”と呼ばれるように。(何故鈴がそんなにも美しいA’s となったのかについては、本編をご覧ください。) 主人公がベルである点と、物語のテンポが理由で美女と野獣に絡めただけで、特に深い意味はない気がしました。
ここからが私の推測です。Belleを日本語読みすると、ベール(veil)、つまり花嫁が頭に乗せてる薄い布になるのではないかと。Uに登録する際に得られるアカウント「A’s」は、ユーザーの素顔を隠すヴェールであるのではないでしょうか。ヴェールは薄く、素顔が見えそうで見えない、だからめくってみたくなる。著名人のプライベートを覗いてみたい心理と重なるように思いました。
5. 落涙を禁じ得なかったシーン
鈴がバスで東京へと向かうシーンで、お父さんが、「鈴にはお母さんの優しさがある」と言葉を投げかけました。U全体を巻き込んだ救出に急行する急展開をバツンと切るようなカットでした。命を賭して男の子を助けた母の行動と、顔を晒して竜を助けに行く鈴の行動が重なった瞬間でした。
思えば父子家庭という共通点のあった竜と姫であり、一方の家庭は虐待へとエスカレートしてしまった。専攻している分野にひとり親家庭の支援が絡んでくるので、個人的にはとても考えさせられるシーンでもありました。
6. クリオネ
お気づきの方も多いかと存じますが、クリオネ(知くん)はおそらく知的障害を抱えていると思います。鈴が「天使の子」と表現していたことや、人とは違う眼差しからも何となくそうかなと。更に彼らの父親は息子らに対して「価値」を求めていたことから、知くんを無価値な存在として扱っていたのではないかと推測しています。先行している分野に障害者福祉が絡んで(略)
7. さいごに
本当に面白かった…内容がもりもりすぎて処理しきれていないので、もう一度観に行きたいと思います。それと、例の卵、まもだったのね…笑
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