やはり心筋炎の頻度は、決して稀ではない

科学誌サイエンスに、若者の心筋炎に関する記事(論文ではなく)が載っています。コロナワクチンの接種で、100万人に数10人程度が心筋炎を発症するとされていますが、気がつかないだけで、実はもっと高頻度で心筋の炎症が起きているのではないか、という内容です。

Heart risks, data gaps fuel debate over COVID-19 boosters for young people
(心臓のリスクとデータのギャップが、若年層向けCOVID-19ブースター接種をめぐる議論に拍車をかける)2022年10月17日
https://www.science.org/content/article/heart-risks-data-gaps-fuel-debate-covid-19-boosters-young-people#.Y1H0aoUfnNE.twitter

以下、引用です。

〈不顕性心筋炎は、考えられているよりも一般的である可能性がある。独バーゼル大学病院循環器研究所のクリスチャン・ミュラー所長は、最近、約800人の病院職員から、ブースター接種を受けた3日後に血液サンプルを採取した。心筋炎の基準を満たした者はいなかったが、40人は心筋の損傷を示す分子であるトロポニンが高値であった。内18例は慢性心臓疾患やその他の既往症が原因かもしれないが、他の22例(参加者の2.8%、女性、男性)については、ミュラーはワクチンがトロポニン値を上昇させたと確信している。この結果は、最近発表されたタイでの研究結果と一致している〉

胸の痛みなどの自覚症状が出る人はごくわずかだが、本人が気づかないレベルで心筋で炎症が起きている例が2.8%あったと言っています。

タイからも似たような研究結果が出ていて、それが以下の論文です。

Cardiovascular Effects of the BNT162b2 mRNA COVID-19 Vaccine in Adolescents
(青年期におけるファイザーmRNAワクチンの心血管系への影響)2022年8月15日
https://www.preprints.org/manuscript/202208.0151/v1

概要には以下のようなことが書かれています。
タイの2つの学校で、13~18歳の生徒312人にファイザーワクチンを2回接種し、3日目、7日目、14日目(任意)に、デモグラフィック、症状、バイタルサイン、心電図、心エコーなどのデータを収集した(解析対象は301人)。主な心血管系作用は、頻脈(7.64%)、息切れ(6.64%)、動悸(4.32%)、胸痛(4.32%)および高血圧(3.99%)で、心血管系への影響は29.24%の患者で認められた。心筋炎は、ワクチン接種後に1名の患者で確認された。また、心膜炎が疑われた患者が2名、潜在性心筋炎が疑われた患者が4名であった。

上記の大学病院職員を対象とした研究より、はるかに高い割合で異常が起きているのは、10代の若い子たちが対象だからかもしれません。

ワクチン接種の直後にこうした心疾患関連の検査をするという研究は、実はそれまでほとんどされていなかったようで、このタイの論文が発表されたときは、ネット上で「3人に1人(29.24%)が心筋炎になる」とちょっとした騒ぎになりました。それで、ロイターが小児循環器科の専門家らにこの論文を読ませて、「3人に1人は本当か」と、わざわざ“ファクトチェック”をやったんですね。以下の記事がそれです。

Fact Check-Study of Thai teenagers did not find one third experienced heart effects after COVID vaccination
https://www.reuters.com/article/factcheck-heart-teens-vaccine/fact-check-study-of-thai-teenagers-did-not-find-one-third-experienced-heart-effects-after-covid-vaccination-idUSL1N2ZT2B5

いろいろ書いてあるんですが、要するに、心筋炎を発症したのは、あくまで301人中1人であり、数値が異常とされている症例は心筋炎とまでは言えない。また、小児の場合、必ずしも異常とは言えない指標も含めているので、異常値を示したのは29.24%(3人に1人)ではなく、18%(6人に1人)で、しかも皆、回復している。だから、「3人に1人が心筋炎」というのはフェイクだと。

だけど、6人に1人が異常値を示したって、十分多くないですかね? そこをそれで済ませていいのでしょうか。

以前、noteで書きましたが、
https://note.com/michiyukis/n/nbabf6797664a

ツイッターで「ワクチン 胸がチクチク」というキーワードで検索すると、ワクチン接種後に胸が痛むとツイートしている人がぞろぞろ出てきます。チクチク程度だと、おそらく、病院で診察を受けない人が多いのではないでしょうか。痛みがあっても受診しなければ人数でカウントされないし、痛みなどの自覚症状がない人はさらにその何倍もいるのでしょう。

ちょっと話がそれましたが、サイエンスの記事は以下のように続きます。

〈良いニュースとしては、どちらの研究でもトロポニン値はすぐに正常値まで低下したことである。「健康な人が1000から2000の心筋細胞を失ったとしても、問題ではありません」とミュラー氏は言う。彼が心配しているのは、毎年ブースター接種をすることで、蓄積される可能性があることだ。「もし、この現象が繰り返し起こるのであれば、非常に心配です」〉

ここでミュラー氏は、「健康な人が1000から2000の心筋細胞を失ったとしても、問題ではありません」と言っています。これはどういう意味なのか。

実は心筋細胞というのは再生されないのです。これも先ほどのnoteで書いていますが、哺乳類の場合、神経細胞(脳細胞を含む)と心筋細胞は、生まれてすぐの段階で分化が止まり、増殖しません。鳥取大学医学部の竹内隆教授が、以下のページで説明しています。
https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g008148
「哺乳類の心臓の細胞は生まれたあとは増えません」「心筋梗塞などで心筋細胞を失った場合には、心筋細胞は二度と増えず、再生ができません。もし、心筋梗塞を起こしても、死んだ心筋細胞のかわりに、元気なほかの細胞たちが増えて元に戻してくれたら、病気の前に近い生活を維持できますが、そうはいきません」と書かれています。生まれてから死ぬまで、心筋細胞の数は変わらず、細胞が死んだらそのままで、機能が元に戻ることはないのです。実はこれが極めて重要な問題なのです。

心筋の炎症を示すトロポニン値が異常値を示したが、正常値に戻ったというのは、炎症が治まったということでしょうが、このとき死んだ細胞は元には戻りません。ミュラー氏は、(心筋細胞は再生されないけど)1000や2000くらいの細胞だったら、死んでもほとんど影響ないと言っています。人間の体は60兆個の細胞でできていて、心筋細胞もそれなりの数があるでしょうから、1000や2000なら大した影響はないのでしょう。しかし、何度も何度もブースター接種をすれば、なんともなかった人でもダメージが蓄積されていく可能性があります。ミュラー氏はそれが心配だと言っているのです。約800人の病院職員の2.8%、約300人の10代生徒の18%で、炎症を示す異常値が出ているのです。

英デイリー・テレグラフ紙が、アストラゼネカCEOのパスカル・ソリオ氏にインタビューした記事が以下にありますが、

Booster jabs for all ‘not a good use’ of taxpayer cash, says AstraZeneca boss
(アストラゼネカの社長は、すべての人にブースター接種することは税金の無駄遣いだと指摘した)2022年8月27日
https://www.telegraph.co.uk/business/2022/08/27/booster-jabs-waste-taxpayer-cash-says-astrazeneca-boss/

取材に対し、ソリオ氏は「若い人にブースター接種は不要だ」「高齢者も年1回でいい」と発言しています。私は、ソリオ氏は社内からこうした心筋炎に関する報告を受けているのではないかと疑っています。

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