正しいのはトップダウンか? ボトムアップか?
会社を経営していると、大小さまざまな決定をしなければなりません。
①どの市場に商品を投入するか?
②ホームページをリニューアルするべきか?
③面接をした複数の就職希望者から、誰を採用すべきか?
④これから提案する重要案件を、どの従業員に担当させるべきか?
⑤社員旅行の行き先はどこにしたらいいか?
⑥コロナ禍、いつまで在宅ワークをつづけるべきか? ……
毎日の決断は、社長にとって、悩みのタネだと思います。
本屋さんに行くと、リーダーシップの本がいっぱい。しかも、それらの主張は、本当にさまざまです。
社員数が増え、いろんな意見が社内に飛び交うようになると、どうやって物事を決めればいいのか、迷ってしまうものです。
特に、リーダーシップ論のなかでも、意見が分かれるのが、「トップダウンがいいか、それとも、ボトムアップがいいのか?」というテーマです。
あるボトムアップ論者は、こう言います。
「優秀な従業員の意見は聞き入れて、手を挙げた人に任せるべきだ。
そうすることで本人も成長するし、社内にも活気が出る」
一方で、あるトップダウン論者も、だまっていません。
「あらゆる意思決定は、社長にしかできない。
ましてや中小企業の場合は、従業員に期待してはいけない」
お恥ずかしいのですが、私もいろんな書籍を読んだり、セミナー・講演に参加したりするたび、右に左に迷う日々を過ごしてきた社長の一人です。
しかし最近、ようやく正しいやり方が見えてきたんです。そのお話をしようかと思います。
民主的な決断は、まちがいではないが……
たしかに、日本は民主主義国家であり、米国のように大統領制ではないから完全に民意が反映されるわけではありませんが、それでも選挙で一人ひとり同じ重さの一票を投じて、議員や首長を選ぶことができます。
つまり、一票は一票、みな平等です。
これは学校なんかでも同じで、クラスの級長を選ぶとか、部活のリーダーを決める時も、みんなに投票をしてもらい、多くの票を集めた人物に決定します。ですから「みんなで決める」ことに対して、私も異論はありません。
あるいは、友人同士の日々のライトな決断でも同じく、多数決で決定するケースがほとんどです。ランチに出かける店を決めるとき。旅行の行き先とか、花見の場所を決めるときなんかも同様です。
ところで、会社経営でも、多数決でよいのでしょうか?
責任をとれない人物に、決定権はない
社長をふくめ、経営幹部、ベテラン、新人の従業員が、話し合って何かを決定しなければいけないこともあります。例えば、お客様に提案する企画を決める会議。あるいは、もっと重大で、会社の経営方針をきめる役員会議。ここで、侃々諤々の意見を交わすことがあると思いますが、どうやって結論を出しているのでしょうか。
昨今、新入社員ですら、「ブレインストーミング」などという言葉も知っており、会議で自由に発言できる会社のほうが、就職活動でも人気があると聞きました。
私の会社でも、基本的に発言は自由ですし、新入社員の意見が採用されるケースも少なくありません。
ただ、ここで忘れてはいけない重要なことがあります。中学生のとき、授業で習ったことで、今でもよく覚えている言葉です。
「共同責任は無責任」
どんな意志決定であれ、その決定に対して、誰が責任を負えるのかを確認しておかないと、その決定の成果が決まったとき、責任の所在があいまいでは困ります。
よって、決定権がある人物は本来、ただ一人であるべきです。
民主主義だからといって、「みんなで決めたことだから、成功しても失敗しても、みんなのせい」というわけにはいかないのが、会社経営というわけです。
こうなると、大企業はともかく、従業員数が数十名ほどの中小企業の場合、重要な意思決定はすべて社長が担当すべきという結論になります。
独断はいけないが、独裁せよ
日本の経営コンサルタントの草分けとして、一倉定という方がいます。
中小企業の社長専門の経営コンサルタントで、いま大企業に成長した多くの創業者を指導したことでも有名な方です。
この方の言葉で、「社長は独断してはいけないが、独裁するべきだ」という名言があります。
会社経営の重要マターにおいて、真に責任を取れる人物は社長だけだ。だから、従業員は事実だけを社長に報告すること。従業員の意見を聞くのは構わないが、みんなで話し合って民主的な決断をしては、絶対にいけない。会社をつぶしたら、従業員は責任をとってくれないし、社長一人で責任をとらないといけない。だから、社長の独裁が正しい。
こんな意味だと、私は認識しています。
こうなると、少なくとも会社経営において重要な決断であればあるほど、社長一人で決めなければならないということ。
つまり、①のようなボトムアップは間違いで、②のトップダウンが正しいということです。
社長は「事実」だけにフォーカスすること
決定するのは社長の「独裁」でいいのですが、情報を十分にあつめないまま、独断で決めるのは危険です。
重要なことは、正しい事実をあつめることです。場合によっては、現場を知る従業員に対して、事実に基づいた意見を聞く耳をもつ必要もあります。
ただし、すべての決断を社長が行うと、組織が硬直化する可能性も否定できません。
そこで、プライオリティが高い課題に対しての方針は、すべてを社長が決断する。
課題の重要性がやや低いものは、幹部社員に決断させ、その責任の所在を明確にすることで、真剣に考える習慣が身につくし、本人の成長にもつながる。
そして、重要度がかなり低いものは、新入社員にも決断させること。飲み会の場所や社員旅行の行き先とか、備品の購入とか。会社が期待していることを伝え、できるだけ会社にコミットする喜びを感じてもらうことです。
中小企業は、人数が少ない分、組織内のバランスが大切。
適度な緊張感があると、大企業よりもむしろ活気が出ると思います。