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「値引き」をしてはいけない理由

 以前、ある工務店の社長を取材したことがあります。
 こちらの工務店。テレビCMほか、大規模なマス広告を使って集客するような大手ハウスメーカーを抑え、地域ナンバー・ワンの受注棟数を誇るという、スーパー工務店です。もちろん、非常に儲かっていると言います。

 私が「儲かる秘訣を知りたい」と質問したところ、気軽に答えてくれました。それが「なるほど!」と思う回答だったのです。

値引きは、お客様への裏切り行為

 工務店の社長の答えはこうです。

「うちは一切、値引きをしないからですよ。
 値引きは商売人として、やってないけない。
 なぜなら、正価で購入してくれた大事なお客さんを
 裏切る行為に等しいからです」

 私も経営者なので、この気持ちは理解できる半面、目の前の「売上」を追いかけようとすると、ついつい価格を下げてでも、受注したくなるという気持ちもわかります。

 この工務店も、「正価でしか売らない」と決断するまでには、大変な苦労があったと思います。

1)自動的に、しかも途切れることなく、見込客があつまる仕組みの構築
2)新入社員でも、高品質なセールストークができるマニュアルづくり
3)競合他社と差別化するための、商品のポジショニング戦略
4)市場ニーズに合う商品設計とコンセプトの策定  など……

 物腰おだやかな社長の笑顔のウラには、まちがいなく大変な努力があったろうと予想できるのです。

値引きによる2つのリスク

 どんな業界であろうとも、安易な「値引き」には、大きなリスクが潜んでいます。そのリスクとは一体、なんでしょうか。

 わかりやすくするために、例えばあなたが、100万円の商品を売る社長だと仮定します。この商品をつくるのに、かかった仕入れは40万円。つまり、60万円の利益が出る勘定です(ここでは人件費などの経費は考えない)。

 景気の後退か、あるいは、強い競合の出現か理由はわかりませんが、市場での競争が激化したとします。
 すると、お客様に商品を買ってもらうために、あなたはやむを得ず「値引き」を検討することがあるかも知れません。

「会社存続」と「品質不良」のリスク

 100万円で売ろうとしていた商品ですが、仕方なく、80万円に値引きする場合を考えてみましょう。
 おそらく、あなたが取るべき道は2つあると思います。

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 ケース①は、仕入先や仕入価格を変更しない場合。
 このケースでは、利益が60万円から40万円へと、一気に減少します。今までは、1ヶ月に10個売ればよかったのですが、値引きをしたために、同額の利益を出そうと思ったら、15個も売らなければならなくなります。市場が拡大している商品であれば、売れる可能性もゼロではありませんが、現実的にはきびしいはずです。
 つまり、「会社存続」のリスクが発生します。

 一方、ケース②は、仕入先に頼んで、あるいは、仕入先を変更して、仕入価格を下げる方法です。
 仕入価格は、40万円から25万円へと大幅に減ったため、利益は55万円に。もともと60万円の利益が出ていたので、たった5万円しか減っていません。ところが、このケースでは、仕入価格を無理に下げたことで、お客様からなんらかのクレームが発生するかも知れません。
 つまり、「品質不良」のリスクが発生してしまいます。

最も大切な心構えは、値引きを回避すること

 商売人として、「値決め」は何よりも重要です。財務の優劣に直結するのは、まちがいなく「粗利」だからです。

 会社存続のリスクと、品質不良のリスク。
 どちらも、起きてしまっては、経営が破綻してしまうことだって、十分にありえます。

 そして、値引き行為は、お客様への裏切り行為。正しい価格で買ってくれた、正しいお客様に、顔向けできない会社になってしまうということです。

 堂々と、正しい価格で商品を売るというのは、なかなか困難なこと。
 会社の経営には、やはり戦略が大切だな~と感じる出来事でした。

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