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29. ジーゼク、ジーゼク、あなたはなぜジーゼクなの?(魚)

菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)


ぼくらはジーゼクという小魚をわなで捕まえていた。その小魚は、正式には、フロウゼク・ドゥロウホヴォウシーという。しかし、ぼくらはその小魚を「ジーゼクのフライ」と言うのと同じように、ジーゼクと呼んでいた。ジーゼクは見栄えのする小魚だ。二本の青みがかったドジョウひげをはやし、まるで大理石のようなまだら模様をしている。神様はその魚を創造するときに、存分に趣向を凝らしたようだ。けれども、そいつはだまされやすい、まぬけな魚だった。(「パイクで勝負」より、p.19)
ジーゼク! あの、金魚鉢に入れておく、ちっぽけなお魚ちゃん。食べられやしない、酢漬けにもできない、オイル漬けにだってできやしないし、揚げて“ジーゼク”になんて、もう絶対にできっこないのだ。
(「来いよ、入れ食いだぞ!」より、p.146)

ジーゼク(řízek)とは、一般的に、揚げもの用に薄く伸された肉片を指す。

ジーゼクのカツ(フライ)は総称してスマジェニー・ジーゼク(smažený řízek)と呼ばれるが、これはチェコを代表する料理の一つである。たいていはパン粉の衣つきのフライだが、プシーロドニー・ジーゼク(přírodní řízek)という、衣なしの、いわゆるソテーもあるそうな。チキンカツ、ポークカツは、それぞれクジェツィー・ジーゼク(kuřecí řízek)、ヴェプショヴィー・ジーゼク(vepřový řízek)というが、どちらも日本のものよりはるかに平べったく、カリッと揚げられている。肉はごくしっかりと加熱してから食べるべしという慣習に基づく料理なのだろう。

プシーロドニ・ジーゼク

(プシーロドニ・ジーゼク)

キノコのジーゼク

(キノコのジーゼク)

いっぽう、フロウゼク・ドゥロウホヴォウシーは子供が遊びで捕まえるのにちょうど良い、小魚ちゃんのようだ。そして、この魚は、なぜだか“ジーゼク”と呼びならされている。なぜジーゼクなのか?本物の“ジーゼク” のように薄っぺらいわけではない。フライにして食べるのが一般的、というわけでもない。

ジーゼクには「薄く伸された肉片」の意味以外に、「何かのひとかけら、一本」の意味もある。こちらの意味から名づけられたのではないか、という説もある。より確かな命名の由来をご存知の方がいらっしゃったら、教えてください。

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