はじめての旅
生まれてはじめて飛行機に乗ったのは、3歳の時だ。
行き先は、イタリア。
もうほとんど記憶はないが、残っている写真を見る限り、ローマを拠点に半年余り暮らし、ギリシャなど隣国もいくつか訪れたようだ。
当時はまだまだアジア人は珍しかった。
子どもだからか嫌な思いをした記憶はないし、近くの雑貨屋に一人でキャラメルを買いにいくと珍しがって、「バンビーノ、バンビーノ」と可愛がってくれた記憶すらある。
ただ親が言うには、玄関のドアの前に犬のフンを置かれたり、下階から天井つまりこちら側の床をドンドンと叩かれたりといった嫌がらせは、それなりに受けていたという。
モンチッチのぬいぐるみをよく持ち歩いていたそうで、ジプシーの子どもたちがそのモンチッチをじーっと睨みつけていたとか。
もうほとんど記憶はない。まったくないといってもいいくらいだ。
でも、幼少期を異国で過ごしたという事実は、アイデンティティに影響を与えたのは間違いない。
この経験がなければ、これほど旅というものに興味や憧れを抱くことはなかったのではないかと思っている。
そういう意味でも稀有な経験をさせてくれた両親には感謝している。
生前伝えられなかったのは、何とも情けない限りだが。
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