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【イラン12】空港で無一文。

本来なら東京にいるはずなのに、まだイランにいる。

結論から言えば、昨日のフライトは予定通り飛び立った。乗るはずだった日本人とロシア人の2人をテヘランに残して。

昨日のフライトは今日に変更になったと言うので、残りのイラン・リヤルもきっちり使い切って、再び空港に来たが、待てど暮らせど、フライトのアナウンスがない。

インフォメーションに聞きに行くと、「今日はない。モスクワ行きは翌々日に変更になった」と言う。昨日に続いて、そんなことあるのか。

徐々に青くなるこちらに「2日後のフライトに乗ればいいじゃない?」と軽く言ってきたが、「モスクワから東京までのフライトは?」という質問には、「わからない。アエロフロートの今日の営業は終わっているから、もう誰もいない」という。

「東京までの直行便のイランエアーに乗ればいいわ」と提案されたが、日本円で8万円。しかも「ビザカードは使えません」という。ドルは使えるのに。。。ここにきて反米のトラップだ。現金は8万どころか、1万円もない。

その瞬間、頭に世界地図が浮かび、果てしなく遠い東京までの距離を思った。

「ヒッチハイク?」テレビじゃあるまいし、非現実的だ。途方にくれた。こんな映画があったな。『ターミナル』だっけ。トムハンクスだったか。あいつはずっと空港で暮らしていたっけか。

最終手段は大使館しかないか。
幸い大使館へは、公衆電話から無料で連絡できる。

電話口のイラン人が「もう今日の営業は終わりだから、明日連絡して」と言ったが、悲壮感たっぷりに、「I'm in trouble……」と訴えた。

するとSさんという日本人の女性が電話口に出てくれた。事情を話すと「頼る人がいないなら、誰かにお金を借りるしかないですね」という。ひとまず明日の朝イチで大使館に来てくれという。あの高級住宅街にあった大使館なら幸い昨日チェック済みだ。

意外な大使館の優しさに、不安が少しだけ消え、涙が出そうになった。

このままターミナルで一夜を明かそうかと思ったが、「金は借りられる!」という前提で再び初日の宿に帰ってきた。


翌朝は二度寝するほど疲れていたが、朝食を美味しくいただき、いざ大使館へ。インターフォンの日本語にホッとしながら、奥へ入る。

応接室に通され待っていると、領事の男性が現れた。

「一緒に聞いてたロシア人もそう思ったんじゃ無理ないですね。まあ運が悪かったですね」と同情された。

領事の指示で、日本人の秘書官がペルシャ語でアエロのオフィスに問い合わせたら、フライトは予定通りだったそうで、空港の対応も知らないという。

「アジアを旅行されてきたならわかると思いますが、イランもルーズでいい加減なところはそういう国々と同じなんですよね」

インドだったら、「フライトはないよ」と言われても信じずに空港で一晩待っていただろう。フライトを直前にずらすなんて、普通に考えたらありえない。でも単にインフォメーションの人たちは、自分たちの持ち得る情報で、こちらにアドバイスしたまでだ。あの後、フライトがリストに復活したら、「そうよかったじゃない」で済んでいただけの話。

なのに、ありえない状況に疑いもせず、アエロのオフィスを探すこともせず、電話もかけず、他の人にも聞かず、テヘランに戻ってしまった。イラン人の優しさ、想像以上に先進的な雰囲気にのまれていた。個人旅行をする旅人として完全にこちらのミス。こちらの落ち度だ。

「ただ大使館としては、お金をお貸しすることは難しいです。公金は少額な上に、手続きが複雑で時間もかかるんですよ。それに、あなたを信用していないわけではないのですがね、パッカーの方には、これまで半分くらい踏み倒された経緯があって、今では利子もつくんです」

おっしゃる通りだ。こんな馬鹿なことした奴に公金をそう簡単に貸すわけがない。そんなことしていたら、大使館ごとに嘘を並べて、公金長者みたいな奴も出てきてしまうだろう。

「そりゃそうですよね」と肩を落とすと、領事は「そうは言っても」と言葉を続けた。

「現実的にはどうにもならないわけですから。これは私個人としてお貸しします」

さらに帰りの直行便のイランエアーまで手配してくれた。

帰国し、自宅に帰る前に、渋谷駅のATMからお借りした金額に少し色をつけて、領事に振り込んだのは言うまでもない。それがこちらを信用してくれた領事へのせめてもの誠意だ。


空港では、みんながNHK朝の連続テレビ小説「おしん」にかぶりついていた。イランでは、視聴率90%を記録したというほどの超人気番組なのだ。

そんな親日なイランの人々を見ながら、思った。

受け入れてくれる国の最低限の言葉すら理解せず、ペルシャ語の数字すら知らず、訪れてからもどうせ短い旅だしと覚えようともしなかった。

そんなナメたツケが、最後に返ってきたんだと思う。イランは素晴らしいと言いながら、イランへの誠意が足りなかった。

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