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ことわれない面倒な客。/48歳バツイチだけど運命の人に出会った【16】

登場人物
私 48歳バツイチ、BAR経営者
たー君 58歳。私の彼氏。運転代行社社長
曽我 47歳 代行の従業員。頭は回るが嘘しか言わない。
原口 42歳 代行の従業員。勢いだけのバカ。

BARを始めて「お客あしらい」も慣れてきたな、と思ったのは一年くらい経ってから。始めの頃はホント、おっかなびっくりやってました。

若いころちょっとキャバクラでバイトしたくらいで、水商売はあまり経験ないし、飲食店勤務は長かったものの、経営ははじめて。

……ていうか。

女が一人で店始めると、最初のうちは知り合い以外はヘンな客しか来ません。統計とったわけじゃないけど、ほとんどの店がそうだと思う。

まあ愚痴言うくらいなら全然オッケーですよ。それが仕事だし。おっさんは上から目線で的外れなアドバイスしてきますが「勉強になります~」とか言っときゃいい。
私のことをブスとかババアなんて言うのも、まあ許しましょう。すいませんね、ブスのババアで、って言いますよ。

本当にヘンな人とは。
「どうにかして私とヤろうとしている」人とか(50のババアなんですが…)、閉店後に扉の外に立ってて「あれ、もう閉めたの? 飲みに行こうよ」と言う人とか、開店準備を手伝ったから「当然毎回飲み代タダになる」と思っている人。

……ではなく、明らかに病んでる人。

これが一番キビシイ。

うつ病と統合失調症の友達いるし、精神的な病気持ってる人を差別するわけではないんですが、ホントにHP削られるんですよ………。

飲みたい気持ちはわかるけど、お酒はやめようよ。ただでさえ悪い精神状態がもっと悪くなるのが見ててわかるんですよ。「殺すぞ」とか「訴えるぞ」って言われたこともあるし、監視されてるとか盗聴されてるって話を四時間も聞いてると、こっちの方が病みそう。

ほかにお客がいて自分が相手されないもんだからって(忙しくて飲み物作るだけで精いっぱいだった)、いきなりキレるとかね。こちらがいくら楽しい話振っても自分がこだわってる話(ネガティブ)にしかなんないし。まだひどい酔っ払いのほうがマシですね。

対処のしようがない酔っ払いは、入り口入ったとたんに解るので、笑顔で「もう閉めまぁす!」って言うんですけどね。
あまりにひどい時は「帰れ!」と怒鳴れるようにもなりました。慣れってコワイ。

しかし、ひどく酔っぱらっているのが解っても、帰れとは言えない酔っ払いが来たんですよ。
それはたー君のお兄さんと、従業員の原口が来たとき。

原口は年齢は四十代前半。見た目はそこそこイケてるのに前歯が一本ないのでマヌケな顔をしています。この人のことはよく知らないのですが、というかこの時が初対面。たしか、たー君は原口のことを、

「イケイケだけど救いようのないバカ」……と言ってたような。

その初対面の従業員が、たー君のお兄さんである阿彦さんと来たんですよ。二人とも明らかに酔っぱらいなんですが「帰れ」とは言えないじゃないですか。
阿彦さんのボトルが入ってたので、水割りにして出したはいいんですが、デロデロの酔っ払い二人なので、何言ってるかよくわかりません。

しかも、ほとんど会話らしい会話もないまま、突然、阿彦さんが帰ると言い出しました。四千円置いて「あとよろしく」って。

阿彦さんだけなら、サイアクたー君を呼べばなんとかなる。しかし、この原口という人はどういう人かも知らないし、目の前にいる彼はかなり酔っぱらって目が座っているワケで。

しかも、阿彦さんがいなくなって開口一番、原口はこう言ったんです。

「俺は帰んないからな!」

すぐに帰そうとしたのがバレたかしら。しかも、次の言葉は、

「岡崎(たー君の苗字・仮)なんかバカだぞ!!」

酔っ払いめんどくせぇ💢

やっぱりたー君、従業員の人望がないのね……と思わずにはいられません。社長に向かって「キレていいっすか?」なんてメールしてくる阿部といい、この原口といい、雇い人にナメられてんじゃないの? 

その日は日曜で私は店をやってますが、たー君は休みの日。あまりにヒマだったので、原口たちが来る前にたー君に電話してたのです。すると。

「今マキ子の店にいるんだけど、これから二人でカラオケ行くから」

……って言われたんですよ。

はぁ? 二人で?

マキ子さんはたー君の同級生で、小料理屋をやっている女性です。

私…この人あんまり好きじゃない。
私も49歳でいいトシなわけですが、マキ子さんは10歳上だから年上は年上だけど、いい大人に対して上から目線で話す人ってどうなの。

洋服が地味とか、もう少し化粧濃くしたほうがいいんじゃない、とか。アドバイスのつもりなんだけど、私はこの人のセンスを認めてない。

この人の店はババアにありがちな「みつをカレンダー」とか「ふくろうのイラストののれん」とか「花柄のドアノブ」で溢れています。玄関先では手作りのポーチも販売しています。

そのババアセンスで人のセンスにモノ言うか?

50のババアの敵は60のババア。
これが70のババアだとけっこうかわいがられたりするのに、10歳ぐらい下の女を敵対視するのはなぜなのか。

あと、マキ子さんって離婚してるんですが、別れた人は同級生。今カレも同級生なんですよ。
彼女が経営する小料理屋は、あまり立地が良くないので、いつも同級生がたむろしています。たー君もその一人。

学生時代のマドンナみたいな存在だったんでしょうね。だからといってマキ子さんが美人かというと………まあ、その年齢にしては、というカンジ。

あと、人の話きかない。お客様の話聞かないで、自分ばっかりしゃべってる。そんなところもババア。
「マキ子の店の料理は酒のつまみにならない」
……と、たー君は言うくせに、毎週日曜に店に行くので私はイラッとしてたわけ。店閉めた後に一緒にカラオケとかに行くし。しかも「社長なんだからおごってよ」と言われるらしく、たー君は毎回払わせられるそうな。

私がマキ子さんを嫌いになるのもわかるでしょ?

そのマキ子さんと飲みに行くというのでちょっとイラッとして、

「じゃあ私も行く。どこの店行くの?」

私は店を閉める気満々で聞いたら、

「まだわからん。後で電話する」

……と通話は切れ、そこに阿彦さん、原口が来たというわけです。

二人に水割りを作った後くらいに電話が来たので、私はスマホを持って店の外に出ました。

「Aビルの『あずさ』にいるから」

と言うたー君に、阿彦さんと原口が来たのでスナックに行けなくなった。二人ともだいぶ酔っぱらってる、と話すと、

「まあ、がんばれよ」

……と、通話は切れてしまいました。イラッ。

そりゃ、私の仕事だから酔っ払いの相手もしますよ。でもさたー君のお兄さんと会社の従業員が酔っぱらってるわけですよ。なんかしてくれてもいいでしょうよ。

そしてお兄さんが帰り、薄暗い店によく知らない酔っ払いが一人。途方に暮れる私。

一人残った原口は、「岡崎はバカ。俺は金払わない。帰らない」……とわめいているわけです。

そんなこんなで30分。いい加減嫌になった私は、

「そんなに岡崎に文句があるなら『あずさ』にいるから行ってみれば?」

……と、言ったところ、原口はそのまま出て行きました。

よっしゃ、今日の営業終了。

さて、店閉めてたー君のところに行くか。原口とバッティングするのも嫌なので、先にたー君ちに行ってよう。
ところが店を閉めて、私はたー君宅で一人酒していたのですが、なかなか帰ってきません。

深夜一時もすぎてからやっとたー君から電話がありました。

「原口に殴られた」

えええー!

つづく

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