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息をするように生きている(週報_2019_02_03)

今週は恩人氏とご飯を食べに行った。

年始に会ったばかりだったから呼び出すのは気が引けた。
だって恩人氏ときたら美味しいものを食べ歩くのが好きなくせに、ほとんど私にお金を払わせてくれないから。

できるだけ負担にならないように連絡するタイミングをはかっていたが、私の買ってきた京都土産は思ったよりも日持ちしないことがわかり仕方なしにこちらからLINEしたのが1週間ほど前のこと。

「いらないなら食べちゃいますけど」
もっと他にも言い方はあったけど、彼が断るときに余計な罪悪感を持たずに済むよう極力可愛げのない言葉をチョイスする。



他人と食事をするのが本当に苦痛だ。
この"他人"には相当近しい関係の知人までも含まれる。
私は醜悪なデブなので、"食べている姿=醜くなるために蓄えようとしている姿"を見られることが死ぬほど恥ずかしいし、死ぬほど恥ずかしいはずなのに食べることをやめられない浅ましさが透けて見えると思うと気が狂いそうになる。

誰かとの食事中は常に内心その葛藤で混乱しているから、見た目普通に何か食べることが出来ていたとしても多くの場合緊張で全く味がわかっていないし、空気を飲みすぎてすぐお腹が膨れてしまう。



一方、恩人氏は人にどう思われるとかをほとんど気にすることがないように見える。

息をするように生きてる。

私が恩人氏につけたキャッチコピーだ。
とても気に入っている。
人の、あるべき姿だと思う。
周囲をうかがって今か今かとタイミングを合わせ、まずは小さく、音をたてず、誰の分の酸素も奪わぬよう配慮しながらやっと一息吸うことのできる私。
"生きづらい"という表現は好きではないのだけれど、やはり"自然"ではないのだ。



恩人氏は割と勝手なところもあるけど、それが私には心地よい。
彼の出っ張っている部分は私の引っ込んでいる部分だったりするので、(めったにないけど)勝手さをブン回されてもお互いぶつかりようがない。

すっかりこの男に油断してしまった私は、苦痛なはずの他人との食事で毎度毎度美味しいとか心底言っちゃって、しっかり満腹になっちゃって、人前では一睡もできないはずなのに熟睡しちゃったうえに大音量のいびきをかいている(しにたい!)
手懐けられたわけではない。
ただ隣で自分のペースで息をしていただけなんだと思う。
メトロノームのような、何か。
この男…自然体を極めた超生命体なのかもしれない。



恩人氏はよく笑う。
大きな波、小さな波。
よく笑うけど決して負の感情が大きく波立つことはない。
受け入れ、受け流し、享受できるものだけに大きな口を開けて笑って生きている。




ーnoteであなたの写真使ってるのわかった?

「どこに?気付かなかった」

ーこれ

「わかんなかった」

ーやっぱ自分の手ってわかんないのかな?

「いや…俺はちゃんとみればわかるよ」

ーいっぱい描いた?

「うん、めちゃめちゃ描いた」

恩人氏が目を細め、ここにはない何かを想っている。
彼は、絵描きだ。
私は恩人氏の絵を描く姿どころか絵そのものすら見たことがないけれど、きっと作品に向き合うときはこんな顔をしているんだろうと思う。

真面目なことを言ったあと彼は必ず変顔をしておどける。
ケラケラと笑う私。
大きな波、小さな波。
波打ち際、あなたの影が重い荷物を背負っているように見える。
大丈夫、気付いていないよ。
私は何も、見なかったよ。

「俺の手は筋張って…骨がはっきり出てるのが特徴だね」

関節の発達した、大きくて、でも華奢な長い指。
クリームのたっぷり入ったパンみたいにむくむくした私の手が恥ずかしくて、そっと彼の掌の中に隠す。

貴方、どうか早く正気に戻って、戻らないで。
私のような俗物と戯れの時間を過ごすこと、無駄であったと気付いて、…気付かないで。

ああ、今この瞬間だけ貴方と私は、描く人と書く人だった。
お互いそれぞれが何かを生み出す指同士だったの。

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