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他人から感じた、初めてのぬくもり

11年前の3月1日に高校を卒業した。
春からの進路は決まらず、憧れの東京生活は1年先延ばしとなった。

実家から2時間離れた街で
予備校に通いながら、寮暮らしをすることに。
寮のみんなとはすぐに仲良くなった。

予備校では一番下のクラスに配属され、
クラスのみんなとも仲良くなれた。

と思っていたのも最初の1ヶ月だけ。
元々集団行動が苦手だった私は、
寮のみんなで夕食を食べることも、
価値観の異なるクラスの女子と話すことも、苦痛で仕方なかった。

そんなとき、毎週水曜日の午前中
英語基礎を教えてくれる先生がやってきた。
センター試験で100点前後しか取れてなかった私は
その先生によく質問をするようになった。
そして次第に先生ではなく、太田さんと呼ぶようになる。

寮生の割合は全体の1割弱。
クラスの女子で唯一寮生だった私に
太田さんはいつも声をかけてくれた。
「ご飯ちゃんと食べれてる?」
「寮生活は寂しくない?」
少し年の離れたお姉さんに、段々悩みを打ち明けるようになった。

「人間関係で悩まなくていいんだよ、勉強に力を注げればいいの」
そう言って、気晴らしにランチに誘ってくれたり、
苦手な子からかくまってくれたり、
息抜きのおしゃべりに付き合ってくれた。

「大丈夫、大丈夫。みっちーはいつも頑張ってるから」
話の終わりにいつもこう言ってくれた。
模試でいい点が取れなかったときも、クラス昇格試験で失敗しても
優しい笑顔で励ましてくれた。

センター試験の当日は、会場まで送り迎えをしてくれた。
申し訳なさ過ぎて、何度も断ったが
「会場まで見届けたいの!!!」と言って、譲ってくれなかった。
試験が終わったあとに買ってくれた、カフェオレが心に染みた。


太田さんはよく、自分の話をしてくれた。
大学時代の経験、家業の華道ついて、旦那さんとの喧嘩話など
自分のことを何でもさらけ出し、面白おかしく話す。
今まで出会った大人たちからは
自分の成功談や自慢話しか聞いたことがなかった。
「なんだ、誰だって失敗するんだ」
そう思った記憶がある。

相談した後、フォローのメールをくれるのがお決まりになっていた。
そして毎回のように「みっちーと出会えてよかった!」
と最後に書かれている。
それまでの人生で、こんなストレートな言葉を受け取ったことがなく、
恥ずかしさも愛混じりつつ、純粋に嬉しかった。


大学1年の夏休みに会ったっきり、太田さんとは連絡を取っていない。
だが、間違いなく人生を豊かにしてくれて
孤独で自分自身と戦っていた私に、ぬくもりを与えてくれた。
11年経った今でも、感謝してもしきれない。

身内以外の他人から、こんなに愛情を注いでもらえることは
人生でそうそうないと思っている。
上司でもない、先生でもない、年上のお姉さん。
当時の太田さんの年齢に近づいている今、
19歳の女の子に愛情とぬくもりを注げるかと言われても
到底自身がない。

どうして私をそこまで気にかけてくれたのか
大人になった今、改めて聞いてみたい。

太田さんとまた、フルーツピークスのケーキ食べにいきたいな。


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