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ムカデに噛まれた!秋の夜の恐怖

 「ギャー、痛い!」。13日午後10時。入浴していた妻が突然、とんでもない叫び声を上げた。「なんだ、なんだ」と驚いていると、妻が風呂場から飛び出してくる。床に突っ伏すなり、今度は「お湯を出て着替えようとしたら、何かに手を刺された。痛くてたまらない」と泣き出す。顔面蒼白で、今にも倒れそう。ハチか毒虫だろうとあたりを付け、脱衣場を調べてみた。


犯人はどこだ。脱衣場を検証する


犯人はこの下にいた

 もしも、ハチなら手に負えない。スプレー式の殺虫剤を握りしめ、恐々とドアを開ける。一歩中に入ると同時に、殺虫剤を床や天井に噴射した。
 脱衣場は狭い。ほどなく、着替えやタオルを入れる藤のかごの下から、気味の悪い虫が現れた。
 体長15㌢ほどか。毒々しい赤色をした頭に、細長くて黒い胴体。数十本の足がムズムズと動き、こちらに向かってくる。
 ムカデだ。こいつが犯人に違いない。おそらく、妻が用意していた着替えの中にもぐり込み、手が伸びた瞬間に噛みついたのだ。とんでもないやつだ。許せない。さっそく殺虫剤をたっぷりと吹きかけ、弱ったところを見計らって、藤いすの足でたたいた。
 さすがの毒虫も動けない。掃除機を持ち出し、ノズルから吸い込む。もし生き返ったとしても、これで逃げる心配はないだろう。


毒々しい姿のムカデ
対ムカデ戦の最終兵器

 「ムカデにやられたんだよ」と言ったら、妻は絶句して泣き続けた。私自身も子どものころ、何度かムカデに噛まれている。その激痛は、今も忘れられない。チクッとした直後、まるで真っ赤に焼いたキリを皮膚に突っ込まれるような痛みが走るのだ。
 「ムカデ?なんでそんなものがいるの。あぁ、痛い。手がしびれてきた。本当にもう駄目だわ」
 ほとんどパニック状態の妻を立ち上がらせると、水道の水で手を冷やした。たらいの中に氷を入れ、手をつけてさらに冷やす。冷やす。それでも、痛みは増すばかり。岐阜市生まれの妻は、生まれて初めてムカデの被害に遭った。その醜悪な姿を想像すると、余計に痛みが募るらしい。
 私の経験だと、ムカデの毒は強力だが、スズメバチなどに比べれば症状は軽い。このまま様子を見ようかと思ったが、妻は「なんとかして。痛くて死んでしまう」と訴える。
 こうなれば仕方ない。プロの治療を受けることに決め、救急病院に走った。

病院で処方してもらった薬

 診察してくれた医師は痛み止めの注射を打ち、炎症とアレルギー反応を抑える薬を出してくれた。
 「ムカデに噛まれたと言ったら、ハチの方がもっと痛いですよ」と慰められたと妻。治療を受けて落ち着いたものの、痛みはなかなか引かない。ベッドに入ってもなかなか眠れず、「ムカデがよう」と悪態をつき続けた。
 それにしても毒虫は怖い。私の家は山裾にあるから、この種の侵入者に狙われるのだ、おまけに、今年は9月の半ばになっても暑い。ムカデたちにとっては、絶好の気候なのだろう。
 ムカデは体が薄く、どんな小さなすき間でも突破してくる。高知県のような南国に住んでいる限り、いつ襲われるか分かったものではない。
 製薬会社によると、ムカデはゴキブリやクモを食べるため、家の中から虫を追放することが予防策になるとか。噛まれた場合は、できるだけ早く傷口を水で洗い流し、市販のステロイド外用剤を塗布するといいそうだ。
 わが家は早速、脱衣場の床のすき間を塞ぎ、ゴキブリ駆除の薬剤を散布することにした。いざという時に備え、薬も買ってきた。
 これで防備は盤石といいたいところだが、相手はしぶとい毒虫である。妻はムカデ恐怖症にかかったらしく、家の中を歩くときでさえびくびくしている。


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