【小説】成田吉寿の地球帝国皇帝業始めました①

2020年11月30日、成田吉寿は、勤めていた会社を辞めた。理由は、賃金奴隷として働くことが嫌だったからである。

賃金奴隷とは何か?それは、資本主義経済の社会で、資本家に雇われ、働く代わりに賃金を受けとる労働者のことである。

なぜ、奴隷なのか?それは、労働者が賃金を受けとるためには、必ず資本家の要求に応えなければならず、逆らうことが許されず、資本家に隷従するより他ないからである。

そして、賃金奴隷とは、賃金という鎖でつながれた奴隷、ということである。賃金は、資本家が労働者にしてほしいと思っていることを、労働者がしたときに支払われるお金である。逆に言えば、労働者は、資本家が労働者にしてほしいと思っていることを、行わなければ賃金を得ることができない。それゆえ、労働者は、賃金を得るために、資本家の言いなりにならなくてはならないのである。これが、労働者は賃金奴隷だという根拠である。

吉寿は、そんな賃金奴隷として働くことが、嫌で嫌でたまらなかった。他人の言いなりになるなんて、まっぴらごめんである。吉寿は、他人の言いなりになる必要のない仕事はないものか、と、考えてみた。

そこで吉寿は、がく然とした。他人の要望に応える必要のない仕事など、どこにもなかったのである。資本主義経済の社会では、何事も需要と供給で成り立っている。仕事とは、供給する側の立場である。そして、供給とは、要求に応じて物を与えることを言う。ゆえに、仕事とは、必要とされることを与える行為であり、その必要に応じるためには、必ず他人の要望を把握し、理解し、適切な行動をとる必要がある。

つまり、お金を稼ぐという行為は、他人の要望に応える行為であり、他人の望みを叶えるからこそ、お金が稼げるのである。

他人の言いなりになることにがまんのできない吉寿は、他人を自分の意のままにできる仕事はないものかと考えた。他人を支配する仕事ならば、他人の言いなりになる必要はないはずである。実は、他人を支配する仕事こそ、他人の要望に応える必要があるのであるが、吉寿は、当初、そのことを見過ごしていたのである。

他人を支配し、他の誰からも指図されたり命令されたりしない立場は、どんな立場か?それは、王者になることだと吉寿は考えた。しかも、地球上で、どんな他人からも指図されたり命令されたりしないためには、世界で一番偉い王様になる必要がある。そのためには、国が複数あってはならない。単一の国家が地球を支配しなくてはならない。その国家の王者こそが、どんな他人からも指図されたり命令されたりしない立場にある人物であろう。

吉寿は、その国家の名前を地球帝国と定め、自らを地球帝国皇帝と称することにした。あくまでも自称である。

しかし、吉寿は気づいていなかった。地球帝国皇帝の立場は、全ての人の要望に応え、全ての人が幸福で満ち足りた生活を送れるようにする立場だったのである。

吉寿が担うことになった責任は、全ての人の衣食住を満たし、全ての人の生活の便利を実現し、身も心も満たされた幸福な状態を、全ての人について実現することだったのである。

そして、吉寿が、その途方もない責任を自覚したとき、吉寿は、逃げ出すどころか、勇んで立ち向かったのである。

吉寿は、人が必要とするものは何か考え、人が必要とするものを必要としている人に届けるためにどうすれば良いかを考えた。ポイントは、人が欲しがるものではなく、必要とするものについて考えたことである。

その結果は、驚くほどシンプルだった。人が1人、生きていくためには、水と食料と衣服と家があれば良いという結果だったのである。その他のものは、ぜいたく品であった。人にとって、無くてはならないものは、それほど多くはなかったのである。

中でも、水は、誰にとっても絶対に必要なものである。吉寿は、水を支配することに決めた。

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