【第17回世界バレエフェスティバル】〈ガラ〉公演 演目決定

プログラムA/Bのあと、1日限りで上演される特別なプログラム、世界バレエフェスティバルの〈ガラ〉公演。8月12日に開催されるその公演の出演者、および上演作品が、主催者のNBSより発表されました。

前回2021年にはコロナ禍での開催となったため、この〈ガラ〉公演は取りやめに。当時の非常事態を思えば開催自体が奇跡的だったため、〈ガラ〉公演取りやめについてはやむを得ないと思うほかありませんでした。しかし、公演と、〈ガラ〉名物のお楽しみプログラム「ファニー・ガラ」を思い、残念に思われた方は多いのではないでしょうか。

今回のバレエフェスティバルは全幕プログラムに始まり、A/Bプログラムを経て、この〈ガラ〉公演で幕が引かれます。2018年ぶりとなるフルラインアップでの開催で、コロナ禍からの復帰が改めて実感されるバレエフェスとなりました。

2024年8月12日(月・祝)14時開演 第17回世界バレエフェスティバル〈ガラ〉公演 予定される出演者と演目

以下、発表された演目と出演者です。上演順ではなく、女性出演者の姓のアルファベット表記順の記載になっていると見られます。

「ドン・キホーテ」

振付:マリウス・プティパ 音楽:レオン・ミンクス
マリーヤ・アレクサンドロワ、ヴラディスラフ・ラントラートフ

「アダージェット」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:グスタフ・マーラー
シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ

「カジミールの色」
振付:マウロ・ビゴンゼッティ 音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ
エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル

「悪夢」
振付:マルコ・ゲッケ 音楽:キース・ジャレット、レディー・ガガ
マッケンジー・ブラウン、ガブリエル・フィゲレド

「ジゼル」
振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー 音楽:アドルフ・アダン
ドロテ・ジルベール、ユーゴ・マルシャン

「シンデレラ」
振付:フレデリック・アシュトン 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
サラ・ラム、ウィリアム・ブレイスウェル

「海賊」
振付:マリウス・プティパ 音楽:リッカルド・ドリゴ
永久メイ、キム・キミン

「ロミオとジュリエット」より第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
ヤスミン・ナグディ、リース・クラーク

「眠れる森の美女」より第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ 音楽:ピョートル・チャイコフスキー
マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ

「コンセルト・アン・レ」
振付:モーリス・ベジャール 音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
大橋真理、アレッサンドロ・カヴァッロ

「シルヴィア」
振付:リセット・ダルソンヴァル 音楽:レオ・ドリーブ
オニール八菜、ジェルマン・ルーヴェ

「スプリング・アンド・フォール」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:アントニン・ドヴォルザーク
菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ

「ル・パルク」
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ 音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス

「TWO」
振付:ラッセル・マリファント 音楽:アンディ・カウトン
ロベルト・ボッレ

「ブレルとバルバラ」
振付:モーリス・ベジャール 音楽:ジャック・ブレル、バルバラ
ジル・ロマン 小林十市

「レ・ブルジョワ」
振付:ベン・ファン・コーウェンベルク 音楽:ジャック・ブレル
ダニール・シムキン

トリがドン・キホーテなのは確実として、実際の上演順と演目は、当日会場でキャスト表を受け取ってのお楽しみ。さらにトリの後のダンサーみんなが楽しんで作り上げるというファニー・ガラを思うと、12日の〈ガラ〉公演への期待は尽きません。

ダンソンヴァル版シルヴィアとは?

ところで演目を見ていくと、シルヴィアの振付家として記されているリセット・ダンソンヴァルの名に目が止まります。

シルヴィアと言えば、見る機会が比較的多いのは英国ロイヤル・バレエ団のアシュトン版かハンブルク・バレエのノイマイヤー版ではないでしょうか。また、ウィーン国立バレエで振り付けられ、24/25シーズンにパリ・オペラ座バレエのレパートリーに入るマニュエル・ルグリ版も思い浮かびます。

世界バレエフェスティバルの〈ガラ〉公演は一回きり。もう一度見たいと思ってもその作品に出会えるチャンスはそうそう巡ってこないことも多くあります。まして同じキャストとなれば確率はさらに低く。となれば、後悔のないよう、知らない作品については調べておき、余すところなく味わうのがベターです。

ということでダンソンヴァルについて調べてみました。

まず、手近なところでウィキペティアを見ると、ダンソンヴァルは1912年生まれ1996年没のフランス人ダンサー/振付家で、セルジュ・リファールがパリ・オペラ座バレエの芸術監督を務めた時代の1940年にパリ・オペラ座バレエのエトワールとなった「リファール世代」のひとりとあります。

さらにウィキペディアによると、エトワールの称号は1941年以前は正式な階級ではなく、ダンソンヴァルはプルミエール・ダンスーズの階級にあってその称号を冠していたということのようです。それから1959年の正式なアデューまで、パリ・オペラ座バレエで様々な役を踊ったことが紹介されています。

そこでパリ・オペラ座が提供しているデータベースのMemoperaを紐解くと、リセット・ダンソンヴァルはダンサーの中には名がなく、振付家として記載されていました。作品としてはシルヴィアひとつきりです。

Memoperaで作品の項目を見ると、確かにダンソンヴァル版シルヴィアの記載がありました。しかしこのバージョンは1979/80シーズンに上演されたきり。とても珍しいバージョンのようです。

珍しいダンソンヴァル版『シルヴィア』ですが、当時のパリ・オペラ座バレエ団エトワールで、名ダンサーとして名高いノエラ・ポントワとジャン=イヴ・ロルモー主演の抜粋が公開されていました。1979/80シーズンのキャストと一致するので、この時の映像であることは間違いなさそうです。

Extrait de Sylvia suivant la chorégraphie de Lycette Darsonval avec : Noëlla Pontois, Jean-Yves Lormeau et le corps de ballet de l'opéra de paris

Posted by Les étoiles de l'Opéra de Paris on Sunday, May 6, 2018

一方INAには、リセット・ダンソンヴァルが踊るシルヴィアのバリエーションの映像が残されています。しかしこちらは1967年の映像とあり、年代的に本人の振付とは一致しません。パリ・オペラ座バレエでは、1941年にリファール版、1946年にアルベルト・アヴリーヌ版のシルヴィアが作られたようですので、そのいずれかでしょうか。

2012年のダンソンヴァル生誕100年にあたり、CNDでは彼女に関する記録をまとめて公開しています。フランス語ですが詳細なプロフィールなど貴重な記録が閲覧できますので、気になる方はぜひ。

https://mediatheque.cnd.fr/spip.php?page=lycette_darsonval-article&id_article=1335

https://mediatheque.cnd.fr/spip.php?page=lycette_darsonval-article&id_article=318

今回この作品を踊るジェルマン・ルーヴェは2011年にパリ・オペラ座バレエ団に入団。オニール八菜は2013年に入団ですが、それ以前に2年ほど契約団員の時代があったということですので、二人は同時期にバレエ団に入り、ダンソンヴァルの生誕100年を迎えた形になります。

二人がこの作品を選んだ理由は現時点では明かされていません。しかしそうした年数の符合を思うと、上演自体が非常に珍しいこの作品を、今回彼らが選び、日本の観客の前で踊ってくれることの意味や貴重さが感じられます。



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