夫が泣いた日

夫の涙を見たことがなかった。
それに気づいたのは、夫が泣いた日だった。

夕方電話が鳴り、受話器を取った。
相手「●●の〇〇ですけど、ご主人いらっしゃいますか。」
私「少しお待ちください。」
私は、今日だったかなと思った。
あの人が旅立ったのだろうと。

相手の方は夫が理事を務めている団体のメンバーさんで、その方が電話してくることはほとんどない。電話の内容は、「その団体のボス・Nさんが今朝亡くなった」という知らせであった。夫は落ち着いていた。
「これから行こ!」と、私は伝えた。
ご自宅に折り返しお電話をして、今から行ってご迷惑にならないか確認できたらすぐにふたりで車に乗った。
到着し、お部屋に入るとすぐに横になっているNさんがいた。
Nさんの奥様と生前の話を数分して、お顔を見せてもらう。

夫が涙をぬぐった。

入退院を繰り返していたNさんは、最後の半年間やせ細っていた。しかし退院すると同時にフラフラになりながらも、イベントごとなど律義に顔を出していた。入院中もパソコンを開き、団体のための事務作業にあけくれていたそうだ。

私が結婚する前からの付き合いで、10年くらいの付き合いだったそうだ。私が知り合ってからも、夫をずっと応援してくれていたし、ほめてくれていた。
コロナ渦でうちの自営業が大変なときも
「待っているだけじゃ来ないから、なんかやろうよ!」と言って団体と共催にイベントを3年ほど開催してくれた。
口だけの応援じゃなく、物理的に助けてくれていた。自分の命も削りながら。

二日後、お通夜の一般焼香にもふたりで行った。
夫はほんの一瞬だけではあったが、顔をくしゃくしゃにして泣いた。

Nさん、ありがとうございました。
今まで本当にありがとう。
彼のために私は何が出来るかわからないけれど、彼のそばにはいようと思います。ひとまず見守ってくれてたら嬉しいです。

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