世界のミチバタから その2 UK編 ー安永哲郎

今回はロンドンの様子を聞いてみます。
2年半前に行った際にはこの街が今のように深刻な事態に陥ることなど予想もできなかったわけですが、その時に出会ったのが台北出身のニッキ・シェンさんと香港出身のクリストファー・チェンさん。ふたりは「BEFORE BREAKFAST」というデザインスタジオをロンドンの北ハイバリーで運営し、主にリソグラフを使ったステーショナリーやペーパープロダクツを制作しています。プリントや製本などほぼすべてのプロセスが手作業で、シンプルで遊び心がありながら、精密な工業製品にも引けを取らない機能的で端正なものづくりがとても魅力的です。彼女たちとは帰国後もやりとりを続け、2019年には日本で初となるポップアップも開催しました。

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↑こちらは移転前、オリンピックスタジアムの近くにあったスタジオを訪問したときの写真です。

変異種の発生や相次ぐロックダウンで過酷さを増すロンドンの事情をニッキさんに聞いてみました。

安永:ニッキさん、ご無沙汰です!ロンドンの深刻な状況をいつも心配しています。元気ならいいんですが。

ニッキ:なかなか厳しいけれど大丈夫。ちょうど3度目のロックダウンから2か月が経ったところだけど、発令と解除を繰り返す状況にもすっかり慣れてしまいました。今は週に2回スタジオに行く以外は自宅で快適に仕事しています。

安永:おかしな状況に順応してしまう感覚、わかります。東京は夜になると街の機能がほとんど停まってしまうけど、それにうんざりしてしまう人や、働きに出なくてはならない人も多く、閉塞感と落ち着かなさが街に満ちていて。終息に向かう流れはスムーズとは言い難く、出口の見えないトンネルを歩いているような気分です。

ニッキ:ロンドンでもこの完全ロックダウンな状態にみんなくたびれてしまっていて、改善までの遠い道のりを実感しています。でもトンネルの先には必ず光があるから、今はそれを信じて!

安永:ですね!ところで、COVIDで印象的だった身の回りの変化はどんなことがありますか?

ニッキ:誰にとっても困難な状況下で、コミュニティの結束力が強まったような気がします。ロンドンでは普段あまり近所の人と話すことはありませんが、昨年3月のロックダウン以来、私たちのビルの住人はみんなでチャットグループを作り、心身ともに助け合うようになりました。一人暮らしの人もいますし、政府の制限のために友人や家族を訪ねることもできないので、チャットで会話をするくらいの小さなことも救いになっているかもしれません。

安永:それは心強いですね。しなやかな連帯に憧れをおぼえます。仕事と生活のバランスはどうですか?

ニッキ:前よりも在宅での仕事が多くなったことで、ワーク・ライフ・バランスをより良いものにするために、掃除や片付けに意識を向けたり、食べるのと同じくらい体を動かすことにも気をつけるようになったかな。毎日のルーティンを維持することよりも、この状況でポジティブであり続けることの方が難しいので、健康的な生活を送ることで心を救っている感じですね。料理も運動も面倒だけど、その分やり遂げたときの喜びがあるから。

安永:新しいことも始めたり?

ニッキ:バーチャルサイクリングを始めました。室内用のフィットネスバイクとPCをつないでアメリカ、フランス、オーストリアなど、世界のさまざまな地域をサイクリングできるソフトがあって。今は旅行できないから、これで世界中をサイクリングできるのはなかなか良いです。

安永:えー、やってみたい。旅行もそうだし、とにかく制約だらけですからね。日本では自粛の名の下に公的支援が心細いのが実態ですが、そちらは十分なサポートがあると言えますか?

ニッキ:イギリスでは不安な要因への対応が遅すぎるというのが一般的な意見で、だからこそ世界でも最悪の影響を受けている国の一つになってしまっていると言えます。基本的に私たちは政府の言うことをあまり信用していません。もちろん、マスクを着けて2メートル以上ディスタンスをとるなど常にルールを守りつつも、政府が最低限要求している以上の自衛をしなくてはならないと感じています。どこかへ移動しなければならない時は不安を感じるけど、周囲の環境に気を配り、良心的に行動すれば大丈夫だと信じています。国から市民への公的支援はとりあえず大丈夫で、企業への財政支援は大丈夫なところとそうでないところがあるといった状況だけど、実際のところは、特にロックダウン中に営業できない小売業や外食産業で苦戦している企業が増えているのが現状ですね。

安永:クリエイションの分野ではどうですか?

ニッキ:正直、この厳しい状況下で常に創作に集中するのは難しいなと感じることもあります。先が見えない不安が渦巻いてしまって。そんな時にはポジティブに気を紛らわすようにしています。ちょっと散歩するだけでも気持ちがスッキリしますね。特にイギリスでは日が落ちるのがとても早いので、やる気が削がれやすいんです。これはちょっと恥ずかしいんだけど......私とクリスはほぼ毎日Nintendo Switchでボクシングのゲームをやっていて。これが意外にリフレッシュできるのね。常に無理してクリエイティブなことをせず、たまには離れて別のことをすると思いがけなく新しいアイデアが出てくるものなんです。一時停止してしまった今の世界から学んだのは忍耐力かな。それも自分たちだけで耐え続けるのではなく、みんなとともに忍耐することの大切さをね。

安永:離れていても同じ気持ちです。また会いましょうね。

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