不思議な夜 (雨の止まない街)
この街は、10数年前の大災害以降、雨が止まない街となった。
そのため街の至る所に水路があり、地下には大きなフィルターがついた巨大浄水場が設置されている。世界の生活水はここから供給されているのだ。
雨が止まないこの街では、水路自殺が蔓延していた。いわゆる溺死だ。溺死というとかなり苦しい自殺方法に聞こえるが、この街の雨には快楽物質と麻痺の作用が強く含まれた雨が降るため、溺れて苦しいという現象は起きず、水路の水を直接飲み込めば数秒で意識は遠のき、快楽とともに地下のフィルターで分解されて骨も残らずこの世からオサラバというわけだ。
もちろん完全に麻痺をしているのでフィルターで分解される時も痛みなどない。
彼女はもともと別の街で暮らしていたが、少し前からこちらに住むこととなった。
始めの頃は雨がシトシトと降っていて、その音や薄暗さが彼女には心地よく、気に入っていた。
しかし、数週間もすると次第に気持ちは下がり、あまり動かないで過ごすことが多くなった。
仕事は、薬剤師であったが風邪に対しての調剤ではなく、心の病気を治すための調剤を行っていた。
彼女の主な業務は政府から配給される薬を、正確に測り、調合リストによっての分別と、政府に薬の発注をすることであった。
憂鬱になりやすいこの街ではこの仕事がよく儲かる。金は憂鬱な彼女の心を一時的にではあるが満足させていたし、彼女は一時的が連なればそれは一生と同じと楽観的に捉えている。
今日もいつも通り調合リストを見ては測りと地道に業務を行なっていた。
そして、毎回発注は少し多めに発注していた。
というのも、彼女もまたその薬を必要としていたからだ。
政府が作り出したこの薬は、不安をなくし、気分をあげる効能があり、巷に出回ってる幻覚をみる副作用があるものとは全くの別物である。規則はあるが医療目的の利用は認められている。
薬剤師である彼女は管理を掻い潜り、自分で薬を調合し、完全に脱法の新しい薬を作っては服用していた。管理を全て任されているので、ほかにもバレることもなくこっそり行っていた。
この薬を使うと、毎回彼女は死んだ様に眠り、目が覚めると異世界がまっているのであった。
つづく。
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