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黒い手袋の女性【毎週ショートショート:読書と石鹸】

私のバイト先の喫茶店に常連の女性客が来た。
以前はご主人と一緒に来ていたが、ここ半年くらいは1人で来ている。
また、前はよく詩集などを読んでいたが、最近は桐野夏生の『OUT』や京極夏彦の『魍魎の匣』、島田荘司の『占星術殺人事件』などの推理小説に仕切りにペンで線を引きながら読書をしている。
そして、手には黒い手袋。
女性は席に本と鞄を置くや否や、詩集がどうのと言いながら、トイレに駆け込んだ。
これもいつもの光景で、短い滞在時間に何度もトイレに入り、備え付けの石鹸が急激に減っていた。

背後でマスターが言った。
恐らくご主人は既に殺され、バラバラにされている。
彼女の本は全てバラバラ殺人がテーマで、犯人に関わる箇所を塗り潰してある。
トイレに頻繁に行くのは死臭を取り除く為に、何度も何度も石鹸で手を洗っているからだろう。
黒い手袋は洗い過ぎてボロボロになった手を隠す為だ。
いつまでも消えない死臭。
それが彼女に残された良心なのかも知れないな。

#毎週ショートショートnote

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