パーソナルコーチングを物語風に表現してみた
私たちが思い悩むとき、内側では何が起きているのでしょう。ちょっと覗いてみると、おや?思考や感情がとっ散らかっています。物があふれかえったごちゃごちゃした部屋のようです。
そこにいると、なんだか休まらない、欲しいものも探せない、集中できない、ないないづくしでストレスがたまります。それに、どこから手をつけていいかわからないです。
「こまった。また後回しに...」
「トントン、失礼します。一緒に手伝いますよ」
「あなたは......?」
「まず、整った部屋を想像してみてください。スッキリしていて、いるだけでリラックスできます。風も通って気持ちいいですね。何かをしたくなります。大事なものがどこにあるか知っています。人を招くこともできるでしょう」
「えっと」
「そんな部屋にできるか不安?大丈夫。もともと、この部屋はそういう部屋でしたから。整理していると、見たくないもの、触りたくないものが出てくるときもあります。無理をしなくて大丈夫です。すこしずつ進めましょう。こんなものを見せたらおかしいと思われる?私は一切からかったりしません。ここで見たことは誰にも言いません、ご安心を」
「待って、あなたは?」
「私はインナーエディターのハコと申します。別な世界ではコーチとも呼ばれています。あなたの内面世界を整えるお手伝いをします」
「なぜ、このようなお手伝いを?」
「散らかった部屋を放っておくと、どうなるか知っていますか?」
「いえ」
「部屋は"モノ"であふれかえり、そこにいられなくなります。つかれはてた体で、あてもなくさまよい続けることになり、永遠に帰ってこない者もいます」
「わたしもそうなる可能性があった...」
「誰しも、その可能性があります。友人、家族、もちろん、この私も」
「それで」
「はい、内面世界で困っている人たちの力になれたらと思っています。そして、もうひとつ個人的な理由が」
「個人的な理由?」
「内面世界を探検するのが好きなんです」
「変態なんですね」
「はは、そうかもしれませんね。内面世界は不思議で魅力的な場所なのです。私も長い年月をかけて整理してきました。いろいろな発見があり、自分自身を知る旅でもありました」
ハコは優しく笑みを浮かべた。
「みなさんの内面にはそれぞれ素晴らしい景色が広がっています。私はそれを見させていただく幸運な存在なのです。散らかった部屋を片付けるのは大変な作業かもしれません。でも、その過程でいろんな自分自身に出会えるでしょう。心の奥底にひそむ思いや望み、そして新たな可能性に」
「でも、どこから始めていいかわかりません」
「まずは、ひとつずつ、小さな一歩から。この部屋のすみっこから見ていきましょう」
私はモノにおずおずと近づいた。ゆっくりと、ていねいに、一つ一つを手に取り、ハコに見せながら整理していく。
ある思い出の品に出くわすと、ハコは柔らかな口調で「大切な出来事だったんですね」と言う。また、見たくないものを発見した時は「表情がすごく険しいですよ」と同じような顔をして教えてくれた。
部屋の奥に眠っていた望みや夢にも出会った。かすんでいて、ほこりをはらっていく必要があった。ハコはそれらに光を当てながら「あなたの可能性は無限大なのですよ。実現できると信じています」と言った。
すこしずつ、部屋の中は整理され、すっきりとしていった。風が心地よく通り抜けるようになり、これまで見えなかった景色が目に入るようになった。私の内側にたたずむ自分自身の姿が、はっきりと見えてきた。
「ほら、すばらしい景色ですね。ここはあなたの居場所です。ワクワクしますね。さあ、今はどんな気持ちですか?」 ハコは好奇心に満ちたまなざしを向けてきた。
「まずは、ここで、ハコとお茶したいかな」
「それはいいですね。喜んでお付き合いします」
お茶の香りは部屋中にふわりと広がった。外から鳥の鳴き声が聞こえる。温かい液体が喉をつたっていく。ふうと息がもれる。私は、今を感じている。静かで、おだやかな時間が流れている。
「ねえ、ハコ」
「はい、なんでしょう」
「また、部屋に遊びに来てくれるかな」
「ええ、もちろん。もし、また部屋が散らかったらお手伝いしますよ。次はどんな景色になっているんでしょう。いやあ、楽しみですね」
「やっぱり変態なんだね」
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