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好きな声と苦手な声

 ロマン派のオペラで男性の花形と言えば、テノール(男声高声部)だが、古典派モーツァルトの場合は違った。代表作『フィガロの結婚』でも『ドン・ジョバンニ』でも、色男や貴人はバスまたはバリトン(男声低声部)で、テノールはお調子者と相場が決まっていた。時代による変遷なのか、作曲家の考えなのかは、いつも知りたいと思いながらまだ調べてないので定かではない。しかしいずれにしても、この〈声域とキャラクターの関係〉はなかなか興味深い。

 さて歌声はおいておいて、話す時の声について。ここで個人的な好みを言うのも憚られるが、あえて言う。高い声より低めの方が好きだ。女性も男性も。
 男性の場合、声が低いというだけで、私の印象は自動的に5割増し良くなる。ひゃらひゃらしゃべるイケメンより、いっそ不細工な重低音がいい。
 女性のキンキンする高い声といわゆるアニメ声が苦手で、申し訳ないが神経に触るのであまり長い時間同席したくないと思ってしまう。声質は持って生まれたものなので、その人に責任はないはずだ。だから、そんなことを言うとは何様のつもりだ、というご指摘はごもっともだ。なのだけど、どうしても合う合わないの相性がある。


 心理学および音声学の観点から声の研究をしている山崎広子氏によると、日本人女性の声は世界一高いらしい。それは本来の地声よりも高い声を作って話すから。地声はそれほど高くはなく、体格や声帯の長さからしても、本来は落ち着いた低い声が十分に出るはずなのに、それを隠して〈作り物の高い声〉で話している、というのだ。
 ははーん、と納得する。ここでも日本社会の未成熟さ加減が知れるというものだ。男性優位の社会が女性に求めてきた役割、という別の問題に根っこで繋がっているとは。

 とは言え、わざわざ高めの声で話すか、低く抑えて話すかは選べるわけだから、結局女性側の問題であろう。アメリカCNNやABC放送の女性アンカーが知的に聞こえるようにできるだけ低い声を目指すのは逆のパターンだろう。
 
 私が苦手だと思ってきたタイプの声は前出の、何かにおもねった〈作り物の高い声〉に属していたようだ。


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