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【ショートストーリー】妻の話

 また始まった。

 妻の話は〈具体例過多〉だ。

「先週の翔太の英語のテスト、前の晩、12時半、いや1時15分くらいだったかな、それくらいまで一緒に勉強したんだけど、ちっとも解ってなくて、慌てて教科書のLesson3まで戻ってやらせてみたら、ぜんぜんダメなのよ。as〜asとかbetter than とか習ってるのに、見たことないとか言っちゃって。今日答案が戻ってきたら、17点。もうそんな点数見たことないでしょ?え、あるの?私は無いわよ。英語は最低の時でも78点だったかな。分詞構文の書き換えの時ね。あれは難しかった。あ、で、翔太ったらbagを「犬」って訳してるし、whoの綴りがhuuとか、Mikeは何回言っても「ミケ」って読むし、もういやんなっちゃう。お兄ちゃんは比較級とか関係代名詞とか、何でもさっと理解して、手がかからなかったのにねえ。中学の英語のテストは最初だけchairとかdoctorの綴りを間違えたのと、gの文字を4線の一番上から書いちゃって89点だったけど、あとはずっと95点以上よ。翔太、塾増やした方がいいかしら?実は今日、新しい塾の体験レッスンを受けさせてみたんだけど、駅前の、ね、ビルの2階にあるとこ。入り口とかホテルですかって言うくらい綺麗でびっくりしちゃったんだけど。先生が大学生のアルバイトだから、講師の制服着ててもなんかこう、うーん、なんていうの?口紅だけ妙にツヤツヤしちゃってたりして、あれ、シャネルのココボームよ、きっと。とにかく片手間のアルバイトって感じだから、いまいち信用できなくて。それに塾増やしても、結局自分でやる気を出してくれないことには始まらないでしょ?それでなんだけど、あなた明日からでいいから夕飯の後、単語とか音読とか、あ、それと不規則動詞の変化表がp.107にあるからそれもやりながら、とにかく勉強見てやってくれない?」

「いいよ」

 ふ〜やっと終わったか。今日も200:1のアンバランスな会話。妻の話の帰着点を待つより、翔太の勉強見てやる方が100万倍楽ちんだ。

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