【ショートショート】夢を売る宝くじ
ここ一週間、ちょこちょこと嫌なことばかり続いている。
まず、スマホを落とした。その日、立ち寄った商業施設の防災センターからの連絡で、トイレに置き忘れていたことがわかった。翌日には戻ったから、まあこれはよしとしよう。
その次の日、カノジョに振られた。こっちは永遠に戻ってこない、だろうねえ。他に好きなやつができたらしい。
それから、会社の取引先から預かった大事な書類を紛失して上司にこっぴどく叱られた。その日の午後、同期のSが昇進すると聞いた。
昨日、夕方のスーパーでレジに並んでた時、強面のおじさんに「じろじろ見てんじゃねえよ」と言いがかりをつけられて脚を蹴られたあげく、レジの順番を譲るはめになった。
そして今日、帰宅すると郵便受けに、先月受けた資格試験の結果通知が来ていた。開封して真っ先に飛び込んできた文字は ---「不合格」。
ああ、なんてこった。次はどんな災いがやってくるんだ。
思い返すと、スマホをなくした日の前日、僕は宝くじを買ったんだ。いつも買ってるわけじゃないけど、なんとなく思いたって買ってみたんだ。当たるなんてこれっぽっちも期待してないよ。ただ「番号」を所有してるってどんな気分か、味わってみたかっただけ。億万長者へのゼロではない可能性、を秘めた「番号」をさ。
宝くじって『夢を売る』っていうのに、あの日を境に僕には夢どころか、嫌なことばっかり起こるじゃないか。そう思うと妙に腹が立ってきて「なにが『ドリーム◯◯◯◯』だ!」と叫んで部屋の壁を蹴った。
そのときだ。壁から声がした。
「宝くじは、あなたが夢を売るものです。だから仕方のないことです。あなたが自分の夢や希望を売ることで、誰かが夢を叶えたり得をしたりする。それが夢を売る、ということです。スマホに関しては売り損ねてしまったみたいですね。でももうこれであなたの夢の売却期間は終了です。お疲れ様でした」
「誰なんだ?---ちょっと待ってくれ」と僕は壁に向かって言った。「じゃあ宝くじを買った人はみんな僕みたいな目にあってるっていうこと?」
「いいえ、そうとも限りません。一点の曇りもない心で『賞金が当たる!』と信じた人たちは違います。けれどあなたの場合は残念ながら…」
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