ハイレゾ事始め(1a) JWH
'John Wesley Harding' について言い足りないことがあるので、追記する。前回はこちら。
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ディランは作品だけの力で勝負しようとしたのではないか。後世、必ずその真価が評価されると信じて。
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1966-67年の音楽界は、作りこんだサウンドをみな競い合っていた。発端は66年暮れの 'Good Vibrations' だ。Brian Wilson が途方もないスタジオ時間をかけて作りだした。だが、その真の姿は、現在に至るも発表されていない。いまだにモノのままである。
それはともかく、聞いた Beatles はぶっ飛んだ。その影響下で、'Sgt Pepper’s' が生みだされた。Rolling Stones も続いた。
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世がそういうサウンドを求めていることに、まるで背を向けるように、最小限の職人肌のミュージシャンたちと、スタジオでさっと作りあげたのが JWH だ。
さっと作ったといっても、気の抜けたプレーをして平気の Mark Knopfler らが奏でる 'Infidels' のようなサウンドではない。よく聴けば、いぶし銀のように唸らされるプレーが連続する。これの影響下にジョン・レノンがソロ1枚めのサウンドを作ったという説は、あながち的外れとも思えない。あのサウンドは Klaus Voormann が偉大だったということでもあるが。
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作品の力とはどういうことか。'Good Vibrations' の歌詞 (Brian Wilson のいとこの Mike Love 作)は、サイケやフラワー・ムーヴメントの背景を考えに入れても、どう見ても中身がほとんどない、空疎な言葉の羅列であり、音楽がなければ到底、力をもち得ない。こんなものに踊らされて音楽を組立てるとは、阿呆ではないかと、ディランは心中思っていたに違いない。
JWH の場合は、本当のプロの技が合わさった稀有な瞬間が記録されている。ちょうど、絵師と彫師と摺師のそれぞれのプロにしかできない技が浮世絵を作りあげるように。一人で全部やったほうがいいという勘違いには到達できない音が入っている。
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