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[英詩]詩形の基礎知識(6)——Three (後篇)

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

「英詩のマガジン」の主配信4月の1回目です(英詩の基礎知識の回)。

詩形の基本原理を考える中で、今までに One と Two と Three を扱いました。おさらいすると、One については、1行詩がすべての詩形の基礎の一つであること、英詩の最小の単位としての1行詩にはいろいろなアプローチがあること、完結した文か句跨りのどちらかであること、などを見ました。haikuやwakaも見ました。Two については、ふつうの定型詩の議論は2行詩に始まること、アプローチは多彩であること、アフリカのバントゥー族の詩や、英詩のカプレット、chiasmus, epigram, ペルシア起源のガザル(ghazal)などを見ました。

前回に引続き、Three を扱います。3行詩です。前回はダンテの『神曲』の terza rima (三韻句法) の展開をみました。シェリやイェーツやエリオットを経て、ヒーニの詩に到達するさまは圧巻でした。古今の詩人たちの間にある種の伝統/対話が形成され、その交響のなかに詩的集合知のようなものが脈打っています。今回も、主として、ハス (Robert Hass) の詩形についての考察に依拠して考えてゆきます ('A Little Book on Form', 2017; 下の写真)。

自由詩に引続き、いよいよ、今回はブルーズです。お楽しみに。

目次
定義
モダニズム
 Williams
 Stevens
 H. D.
ブルーズ連
 Hughes
 Brown

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201804)」へどうぞ。

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英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
【発行周期】月3回配信予定(他に1〜2回、サブ・テーマの記事を配信することがあります)
【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人です。
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。

伝統歌の基礎知識(1)——ポール・ブレーディの場合」「伝統歌の基礎知識(2)——ボブ・ディランの場合」「伝統歌の基礎知識(3)——'Nottamun Town'」もあります。

Bob Dylanの基礎知識(1)」「Bob Dylanの基礎知識(2)」「Bob Dylanの基礎知識(3)」「Bob Dylanの基礎知識(4)」もあります。

バラッドの基礎知識(1)」「バラッドの基礎知識(2)」もあります。

ブルーズの基礎知識(1)」「ブルーズの基礎知識(2)」「ブルーズの基礎知識(3) 'dust my broom'」もあります。

[英詩]詩形の基礎知識(1)——tail rhyme」「[英詩]詩形の基礎知識(2)——sonnet」「[英詩]詩形の基礎知識(3)——One」「[英詩]詩形の基礎知識(3)——Two」「[英詩]詩形の基礎知識(5)——Three (前篇)」もあります。

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定義

(承前)

3は、2を基礎とする場合の相補性に比べると、不均衡で過剰なところがある。

2を基礎とする韻は、完結が確実であり、韻の整然、および、結合という起源が強調される。

3つ組の韻(トリプレット)は表現しすぎ、あふれ、おどる。

2ならば愛し愛されることで完結するところが、3になると1つ余分になる。その部分が不均衡や過剰を感じさせたり、あふれて踊りだしたりする。カプレットがトリプレットに変わるだけで、詩としての性質がまるで変わってしまう。

英詩の歴史において、3のそういう性格はばら戦争のころに書かれた15世紀の詩 'The Roses Entwined' でもみられる。あふれるほどの甘美さをもつ恋愛詩である。

17世紀の Robert Herrick の詩 'Upon Julia’s Clothes' も過剰なくらい甘美なトリプレットである。

3行詩の典型は何と言っても terza rima である。ダンテが『神曲』で用いたこの三韻句法の押韻形式は aba, bcb, cdc . . . となる。

詩行を織るような形式だ。同じ糸を3本続けるのでなく、間に違う糸を入れ、それが次の連の主たる糸になる。奇しくも、トスカナ地方の織物の技術と共に発達した詩法である。

英詩における terza rima の例は多くないが、その少数は見事なものである。

Percy Bysshe Shelley の 'Ode to the West Wind' は最も有名な例である。

W. B. Yeats の 'Cuchulain Comforted' はダンテの『地獄篇』を喚起する、神話的な詩行を綴る。

T. S. Eliot の 'Little Gidding' はダンテとシェリの terza rima を、模倣することなく、喚起している。

Seamus Heaney の 'Station Island' はダンテとエリオットを喚起している。そこへジョイスも現れる。

このように、ある詩形にまつわる連想や余韻や残響を媒介として、古今の詩人たちの間にある種の伝統/対話が形成され、その交響のなかに詩的集合知のようなものが脈打つのが感じられてくる。

(自由詩)

Walt Whitman の 'Song of Myself' 中に現れる3行連の強靭さと繊細さとしなやかさは、韻から解放された、全く新しい何かのように見える。

3は2よりずっと複雑である。

今回は自由詩の続きから始める。


モダニズム

モダニストたちが自由詩の実験を始めたとき、3行詩 (tercet) は、2行連 (couplet) ほど整然とした感じがなく、かつ、4行連 (quatrain) より最終の感が少ないことから、お気に入りのフォームになった。つまり、モダニストには2行詩や4行詩より3行詩のほうが、より自由詩らしく感じられたのである。具体例をみてみよう。

■ Williams

ウィリアムズ (William Carlos Williams, 1883-1963; 下の写真) は短い行、中くらいの行、それに長い行の詩で3行詩を用いている。

まず、短い行の例「抜け穴」 'Porous'.

Cattail fluff
blows in
at the bank door.

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