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[書評] 200年前に突如として江戸に現れた少年は異界からの帰還者だった

平田 篤胤『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』(KADOKAWA, 2018)

平田 篤胤『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』(2018)


興味の尽きない本だ。神道書なのだが、中身は、国学者、平田篤胤(1776-1843)による「天狗にさらわれた少年」へのインタビューである。アイルランドでも妖精にさらわれた人への聞き書きがある。異界の様子を伝える点では似ている。

この方面に関心を持つ人にとっては、またとない研究対象になり得るものなのだが、本書の「はじめに」という前書きは誤解を与えかねない。現代語への訳者は〈篤胤は、自分が直接、常陸国の山々にある仙境に行けるとは考えていなかったようです〉と記し、少年〈寅吉の語る内容は荒唐無稽なものだと言えます〉と述べたうえで、その内容が〈想像力に基づいて再構築〉された、〈虚構と現実の境目が曖昧〉なものと断じている。

みずからが行けないと考えていたが、「〈幽世〉(かくりよ)の実在を信じた」からこそ、篤胤は「この少年に〈幽界〉への手紙を託した」(野口 武彦)のではないか。

その意味を、本書が成立した1822年から200年たったいま、私たちは吟味すべきときに至っている。

#書評 #平田篤胤 #仙境異聞

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