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[書評] ToM 氏の地球空洞論

「ムー」2019年2月号

地球平面説の背後にあるもの

元FBI特別捜査官ジョン・デソーザの興味深い発言がある。〈地球平面説は10年くらい前から、いろいろな人がこの説を唱えはじめたのですが、これには理由があります。これは「地球の内部は空洞になっている」という事実を否定するために、この説が流布されはじめたのです〉(『The X-MAN File Q』、2021年、95頁)。

だとすると、イーロン・マスクが地球平面説論者を 'Flatulence Earther'(flat earther「地球平面説論者」のパロディ[flatulence は「膨脹」「慢心」の意])と揶揄したように見えるのも、その実、揶揄ではなくて、背後の真実に気づかせるためかもしれない(2022年7月6日の Tweet)。

ToM 氏による「地球空洞論地球空洞説の超科学」(「ムー」2019年2月号)が24頁にわたって、エドモンド・ハレー(17世紀の天文学者)に端を発し4世紀後の今も論じられつづけている〈地球空洞説〉について解説している。

プロローグでは地球内部の構造について地学的におさえる。地殻、マントル、外殻、内核という大構造だが、そもそもその仮説のもととなっている地震波の分析において、ある種の震動が予測通りの結果にならない現象も発生している。

広大な影の領域(シャドー・ゾーン)が地球の反対側に現れるのはなぜか。〈まるで地球の中心を通る震動の経路を何かが塞いでいるように見える〉と、ToM氏は記す。

また、地震のたびに震動が継続し、地殻に共振が起きるのはなぜか。〈巨大な鐘のように地球が共振する〉とToM氏は書く。

専門家はこれらの疑問に答えられないが、〈地球が空洞〉であると考えれば解決するという。

〈地球空洞説〉の系譜につらなる論者として、英国の天文学者・地球物理学者エドモンド・ハレー(Edmond Halley, 1656-1742, ハレー彗星 の軌道計算で有名)、米国陸軍大尉ジョン・クリーヴズ・シムズ(John Cleves Symmes Jr., 1780-1829)、カナダ生まれの著述家マーシャル・B・ガードナー(Marshall Blutcher Gardner, 1854-1937)の名前が挙げられる。

これらの説で言及される両極の開口部は、衛星画像では明確な確認はできていないという。しかし、〈地球内部へ旅したという人々は少なくない〉とToM氏は述べる。

冒頭に挙げたデソーザの発言の根拠にはさまざまなソースがあり、一つは米国海軍少将リチャード・バード(Richard Evelyn Byrd Jr., 1888-1957)の「ハイジャンプ作戦」(Operation Highjump, 1946-47年の大規模な南極観測プロジェクト)の日記があるという。デソーザはその日記に地球空洞化のことが書かれていると断言しているところからすると、この日記にアクセスできたことがうかがわれる(後述)。

ToM 氏の記事の第1章では、空洞世界に関する世界各地の伝説および北極点を目指す探検家たちを紹介している。

ギリシア神話のヒュペルボレイオス(北極の彼方の温暖な地に住む民族)に関連するものでは、米国の作家ウィリス・G・エマスン(Willis George Emerson, 1856-1918)の小説 'The Smoky God, or A Voyage Journey to the Inner Earth' (1908, 邦訳『地球内部を旅した男―オラフ・ヤンセンのシャンバラ・レポート』) などがある。これはノルウェーの漁師ヤンセン父子の体験記を小説にしたものだ。

1829年4月、ヤンセン父子は漁船で沿岸を北上し、北極圏に入った。海が突然荒れ、嵐になる。船が押し流されたあと、水中のトンネルのようなところを航行し、地球内部に入った。目の前に巨大な船が現れ、乗組員たちは身長が4メートル以上ある巨人だった。巨人たちは友好的で親切だった。

父子はエヒウという都市に連れていかれる。地球内部の巨大空間には太陽(スモーキー・ゴッド)が浮かんでいた。住民の平均寿命は約800歳。高度な文明を築き、建物は黄金で彩られていた。

父子は、モノレールのような電気的な乗り物で首都エデンに連れていかれた。エデンには4つの川(ユーフラテス、ピション、ギホン、ヒデケル)の源となる巨大な泉があった。住民はここを「地球の中心」と呼んでいた。気候は高温多湿。

父子の体験とほぼ同時期に他に3件の酷似した事件が起こっている。そのうちの一例では、巨人たちは、自分たちはアトランティス大陸の生き残りで、大陸が海に沈む前に地球内部に住みついたと伝えたという。

4つの川の関連では、地図の投影法の名で知られるゲラルドゥス・メルカトル(1512-94)が1569年に作成した世界地図に、なぜか〈北極大陸〉が描かれており、その大陸には『スモーキー・ゴッド』に出てくる4つの川がある。〈メルカトルはどこからこの川に関する知識を得たのか?〉とToM氏は問う[旧約聖書の創世記2章に出てくる、エデンから流れ出る4つの川は、ピション、ギホン、チグリス、ユーフラテスである]。

氏の推測では、開口部は極点ではなく、ややシベリア側に位置しているという(北緯80度、東経80度)。

ToM 氏の記事の第2章は、上述のリチャード・バード海軍少将を扱う。当時の彼の日記から引用している(Geoff Douglas, ed., 'Admiral Richard E. Byrd's Missing Diary: A Flight to the Land Beyond the North Pole into the Hollow Earth', 2017)。

この日記の記述が真実とすれば、驚くべき内容である。1947年2月19日に北極ベースキャンプ(アラスカ基地)を飛行機で出発したバード少将の日記。彼が以前から気になっていた、北極の彼方に温暖な地があるという噂を確認すべく、北極点上空を通過して、そのままソ連側に2700キロほど飛んだ後に帰投するはずだった。以下、2月19日の記録(日本語訳はおそらく ToM 氏による)。

10時00分=山脈の上を飛行中。川らしきものと緑の谷が見える。いや、北極のここに緑があってはいけない。異常だ。ここに雪と氷以外があってはいけない。だが、山の斜面に森が見える。
10時05分=谷を調べるため、高度を1400フィートに下げ左折。この緑はコケが堅いタイプの芝生に見える。そして、光が他と違う。太陽はすでに見えない。さらに左折。眼下に大きな動物のようなものが見えた。マンモスに見える。信じられないがそこに存在する。高度を1000フィートまで下げ確認。ベースキャンプに報告。
10時30分=緑の丘の上をさらに旋回中。機外の気温はなんと23度だ。ナビやコンパスは通常に戻った。しかし、無線がきかず、ベースキャンプに連絡できない。
11時30分=眼下は水平な土地のようだが、そこに都市らしきものを発見。あり得ない。そこにある航空機らしきものは、われわれのそれより軽く、浮力がありそうだ。奇妙な形の航空機が接近してきた。円形で光を放っているようだ。近くに来ると、機体にスワスティカ(鉤十字)に似たマークが見えた。操縦桿がきかず、引いても反応がない。

Geoff Douglas, ed., 'Admiral Richard E. Byrd's Missing Diary' (2017)

上述のデソーザが言及する日記もこのあたりの記述のことか。

第3章は、ナチスの南極探検を扱う。これは1938年、ヒトラーの〈南極を探検せよ〉の掛け声とともに開始された。その後も、毎年のように遠征隊を送りこみ、南極大陸と周辺の島々に関する調査を続けた。第2次世界大戦の終戦後にナチス・ドイツがひそかにUボートで南極を目指したという説がある。

第4章では、元NSAおよびCIA局員のエドワード・スノーデンが地底人について〈地球のマントルにわれわれよりはるかに知的な生命が存在する〉と述べたことを紹介している。

エピローグでは、空洞世界を超弦理論によって解き明かす可能性について論じている。

上で聖書に少しふれたが、聖書では黄泉は地球の中心にあるとされている(イザヤ14.9、エゼキエル31.14)。

本記事の著者 ToM 氏は、かねてから地球空洞説に着目し、長い間データ収集と分析をおこなってきただけあって、読みごたえのある記事である。この問題について理解が深まり、同時に謎も深まり、興味が尽きない。

#書評 #地球空洞説

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