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【映画評】The Secret of Kells

The Secret of Kells
邦題「ブレンダンとケルズの秘密」
2009年公開(日本公開 2017年)
監督 Tomm Moore

見ごたえ

トム・モーア監督の凄まじい感性を印象づけるアニメーション映画(フランス、ベルギー、アイルランド)。装飾写本の極致といえる『ケルズの書』にまつわる創作ストーリーを美しい色彩と音楽で飾りつつ、書(聖書)と世界、書と生命、書と人間といった深いテーマを抉り出す映画。見ごたえがある。


We're only here for a short while

映画で出てくる猫の名が Pangur Bán といい、同名の有名な古アイルランド語詩から採ったのは間違いない(映画の終わりにその詩が朗誦される)。

アイオナ島(アイルランド語で Í, スコットランド・ゲール語で Ì)からやってきた装飾家の Aidan がその猫を連れてくる。彼が主人公の少年 Brendan に語る言葉 'We're only here for a short while'「われらの地上の生はつかの間に過ぎない」は、生涯をかけても写本の完成に至らぬ技術者の感懐をよく示す。少年老い易く学成り難し。


You can't find out everything from books

Brendan が語る言葉 'You can't find out everything from books, you know'「なんでも本で見つかるわけじゃないよ」は、書の世界を飛出して妖精の世界も冒険する若者らしい覇気を感じさせる。このあたりのファンタジー的感覚は、この監督のその後の 'Song of the Sea' (2014)「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」を思わせる。


Chi-Rho のページ

しかし、結局、彼が完成させる『ケルズの書』の Chi-Rho のページ(キリストを示すギリシア語の最初の2文字、下)は、映画の中でも圧倒的な存在感がある(聖マタイによる福音書のキリストの生誕物語の前に置かれている)。ダブリンのトリニティ大学の図書館でレプリカを見た人は同書の美しさを思い起こすことだろう。

つい最近、精緻きわまる解像度で『ケルズの書』がオンライン公開された (※)。世界で最も美しい本といわれるが、その美しさは、それを通して宇宙が垣間見られるような美しさである。

※右上の全画面トグルスイッチ (Toggle full page) をクリックしてから拡大してみるとかなり細かいところまで分る。上の Chi-Rho のページは Folio 34r で、そこで全画面にして、さらにズームすると息を呑む(下、これがトリニティ大学のサイトではズームできる)。

#映画評 #ケルズの書 #彩色写本

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