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「よめない」ラジオ

リクエストの曲名がよめない。アナウンサーも、司会者も。だれも。そのまま8時間つづく。そういう珍現象がある番組で起きた。

「今日は一日 三昧」(NHK FM)がケルト音楽を特集したためだ。

ケルト音楽はケルト語圏の音楽。アイルランド、スコットランド、ウェールズ、ブルターニュなどの音楽。

曲名はケルト諸語で綴られる。よめないのもある意味で当然。

アイルランド大使館からのリクエスト曲を赤木野々花アナウンサーがよみあげて、司会のおおしまゆたかさんや、トシバウロンさんに、ご存知ですかと訊く。ふたりとも「?」の表情(見えないけれど)。おおしまさんがぽつりと「聞いたら分るかもしれませんね」と。

けれど、これは特別なことでもない。アイルランドでセッション中に「いまの、何ていう曲?」と訊いても、「さあ」と言われることは結構おおい。彼らも聞いたら分るくちなのだ。

彼らも曲名にさして関心がないこともあるのだろうけれど、だいたい曲名はよみにくい。

上に挙げたアイルランド大使館からのリクエスト曲は番組公式のリストによると

47. Ar Eirinn ni neosfainn ce hi / Dervish

とある。このままだと、確かによみにくい。曲を聞けば、ああ、あれと、分るひとは多いだろう。アイルランド語の綴りは

Ar Éirinn Ní Neosfainn Cé Hí

となる。

Cathy Jordan が唄う美しい歌だ。


アイルランド語がよめない、発音できないと番組で話があった。が、発音と綴りの関係については、アイルランド語の方が、例えば英語より、よほど規則的だ。だから、規則さえ知れば、よめる。

ただし、人名や地名は、必ずしもよむのが簡単でないこともある。歴史的に古いことばを引継いでいることがあるから。


このあとは、上記の曲名についてのアイルランド語の説明。ご関心の向きはどうぞ。

ぜんぶ説明できないので、いちばん難しそうなところだけ。

Ar Éirinn Ní Neosfainn Cé Hí
アイルランドでは私は彼女がだれかいうつもりはない
On Ireland I'd not tell who she is

4語めの動詞 neosfainn ニョーサンは動詞 inis「告げる、tell」の条件法1人称単数形。特殊な活用形にみえる。

現代語の inis は古い形はどうなっているのだろう。ディニーンの辞書に innisim の見出しがある(tell の意)。未来形などが inneos-, innseoch- と書いてある。

また、'neosad の見出しもあり、しばしば inneosad の代わりとなるとある(I will tell の意)。

以上を総合すると、上の neosfainn の neos- は、inneos- の頭の in- が落ちた形と思える。

[上の写真は、番組公式 Tweet から]

アイルランド語の綴りと発音の関係について、我々の研究会で訳した『アイルランド語文法 コシュ・アーリゲ方言』(研究社、2008)をみれば一覧できるけれど、古書でしか手に入らない。英語だが、その原書の Michael O'Siadhail, 'Learning Irish: Text with Online Media' (Yale UP, 2017) にはその一覧が入っているはず。

#日誌 #ケルト音楽 #曲名 #アイルランド語

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