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[CD]Pentangle, 'The Albums'

Pentangle, 'The Albums' (Cherry Red, 2017)

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Pentangle のオリジナル・アルバム6枚(リマスター盤)に、未発表録音などを加え、詳細な解説を付し、箱に収めた Cherry Red 版。紙ジャケット (ディスク用の内袋なし)。アーティストへの尊敬と愛情があふれた製品。

もし、ペンタングルのファンで、既発のLPやCDを全部持っている人でも、本集は音質のためだけでも入手の価値がある。リマスターリングは、英国の Fluid Mastering で Nick Watson がおこなっている。聴いたかぎりでは、オリジナルのパニングなどはいじらず、音質の鮮明化に専念しているように聞こえる。これを聴くと、逆にオリジナルのマスターはさぞ凄い音質だったのだろうなあと思わせられる。本集は LP を超えるとは言えないが、CD として望みうる最高の音質だろう。

付属冊子の巻末にペンタングルのグループとしての活動を中心にした年譜が付いている。1967年1月14日(土)の Bert Jansch の London 公演にはじまり、1972年11月29日(水)の Barnsley (イングランド北部 South Yorkshire 州)  公演まで、6年足らずの記録だ。Melody Maker 紙がペンタングルの解散を報じたのは1973年1月のことである (NME 紙では解散を彼らが否定した)。

だが、これ以外にも無数のヴェニューで、さまざまな形で公演をしているはずで、現に Cecil Sharp House (2 Regent’s Park Road, London) に見に行ったコンサートは記載されていない。


The Pentangle (May 1968)

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1枚めのアルバムは定冠詞がついて 'The Pentangle' と題される。英語の pentangle は「五芒星」の意。ちなみに、ペンタングルのメンバーは五人。五人とも英国を代表する屈指のミュージシャン。ジョンとバートはそれぞれのソロ活動も名高い。ダニはいろいろなセッションに顔を出して存在感を発揮している。テリも、ダニほど目立たないが、ペンタングル以外でもいろいろ活躍している (Tudor Lodge をふくむ)。

Jacqui McShee (vo; 25 December 1943 – )
John Renbourn (vo, g; 8 August 1944 – 26 March 2015)
Bert Jansch (vo, g; 3 November 1943 – 5 October 2011)
Danny Thompson (double b; 4 April 1939 – )
Terry Cox (vo, ds; 13 March 1937 – )

オリジナル・アルバムの8曲に加えて、13曲のボーナス・トラックが付いている。そのうち、'Koan' (9, 17) はめずらしい曲だ。Big Jim Sullivan の 21/8 の曲で、彼のアルバムでは John McLaughlin がギターを弾いていた。Big Jim Sullivan はあの哀切の極みの歌 Gilbert O'Sullivan の 'Alone Again (Naturally)' で間奏のギターを弾いたミュージシャンだ (参考ビデオ)。私も同歌を伴奏したことがあるが、その時に間奏のギターを弾いたのは有山 淳司だった。 'Koan' は禅の「公案」のことで、器楽曲としてはとてつもない難曲ということになるだろう。ペンタングルの正規リリースには入っていない。

トラック 19-21 は、1967年8月のスタジオ・セッションで、知られている最も初期の録音ということになる。エレクトリク・ギターのみ使われており、フォーク・ロック寄りのサウンドだ。デビュー後のペンタングルの洗練された精緻なフォーク・ジャズあるいはジャズ・フォークのような雰囲気はまだない。うち、トラック 20-21 は本集が初の収録。


Sweet Child (November 1968)

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2枚組。ディスク1は1968年6月29日のLondon公演 12曲(Royal Festival Hall)を収める。さらに、ボーナス・トラックが7曲つく、といっても、これも同日のコンサートの録音。これらがオリジナル・アルバムに入らなかったのは、うち6曲がファースト・アルバム(+シングル)で既発表だったからという理由だと、Colin Harper は述べる。あとの1曲はジョンのソロ第1作に入っていた曲だった。

同日の公演では、少なくともあと2曲が演奏された。'Pentangling' と、バートのソロの 'Blackwater Side' である。これらの録音は残っていないという。

これらのライヴの演奏はいづれもすばらしい。ファースト・アルバムに入っていた曲もこちらのライヴのほうがいいくらいだ。

いつの日か、同日のコンサートを完全収録した音源が発表されることを夢見てしまう。

ディスク2はスタジオ録音。10曲がオリジナル・アルバムから。加えて、11曲のボーナス・トラック。

トラック13 'Haitian Night Song' のスタジオ・テークはライヴ版よりいいのではないか。ダニのソロ演奏は Charles Mingus の曲の深みを引出している。

テリの曲、トラック19 'Moon Dog' はトラック9がテリのソロだったのに対し、バンドで演奏したもの。歌はジャキ。ただし、音質の劣るテープから起こされているのが残念。きちんとした録音が見つかるのを期待。


Basket of Light (October 1969)

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3枚めの9曲に加え、6曲のボーナス・トラック。

本アルバムは '1001 Albums You Must Hear Before You Die' (2005) の1枚に選ばれている。それだけ世評は高いのだが、CDの解像度ではやや苦しい印象を受ける。ベースとドラムズが作りだすジャジーなリズムに2本の超絶技巧のギターがからみ、天空をジャキの声が翔ぶ。ジャズのコンボにおけるインタープレイにも似た音楽をきちんと響かせるためには、ハイレゾ音源が必要ではないか。だが、どうも出ていないようだ。

トラック13-15はスコットランドのAberdeenでのライヴ録音。うち、13 'House Carpenter' は未発表録音だが、最後のほうにジャキの無伴奏歌唱のセクションがあり、貴重。14 'Light Flight' も未発表。このライヴ録音はあまりいいミクシングでない。

ただ、このライヴ録音は、ペンタングルのドキュメンタリー映画のためのオーディオ・テストの性格があったということなので、いつの日か、その映画が発見されることを期待する。

本アルバムは 'Pentangle's commercial pinnacle' だと Colin Harper は指摘する。英国でアルバム・チャートの5位になったことを指す。

確かに、「ペンタングルの商業的な頂点」ではあるかもしれない。しかし、1-2枚めに見られたような実験的精神は本アルバムでは影をひそめている。Big Jim Sullivan の 21/8 の曲をやろうとしたり、ミンガスのベース・ソロ曲をやったりといった、音楽の可能性を追究するような姿勢は殆どない。


Cruel Sister (November 1970)

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ペンタングルの最高傑作である4枚めは、商業主義の極みである3枚めに比して言うなら、伝統回帰の頂点。とりあげられた曲はすべてトラディショナル。伝統歌への真摯な取組みがミュージシャンシップの粋を引出している。

ジャキの歌は、伝統歌の奥にある真情をこの上なく透明な仕方で窺わせるのに成功している。ジョンのギターは技巧過剰に陥らず抑制の利いたタッチで演奏され、彼の歌もまた控えめながら、歌にかくされたひだを陰影をそのままに描きだしている。

バートの力強いギターと歌が LP 片面 (B面) ぜんぶで展開される 'Jack Orion' は、当時、フォーク・ソングが一面を費す録音がされるなんてとの批評をまねいたが、それはまったくの誤解に基づく。伝統歌は、もし環境がゆるせば、何十連と続くのはふつうのことだ。むしろ、レコード録音がそれらの歌の伝承に制限をかけているとも言える。ボブ・ディランでさえ、自作曲の 'Sad Eyed Lady of the Lowlands' で片面ぜんぶを使っている。

音質は標準的なものと言えるだろう。LP の域には達していない。私は本盤の LP を2種、CD を1種持っているだけであるが。

歌と器楽の織成し方が伝統へ奉仕する精神で抑制的な方針に貫かれているので、音像は比較的澄明。おそらく SP 盤がもしあれば、それがいちばん本アルバムの空気を伝えることだろう。

録音は1970年6月 (およびおそらく9月) に London の Sound Techniques でおこなわれた。プロデュースは Bill Leader. これまでの3枚が Shel Talmy のプロデュースだったのに比べると、まったく違う質感がある。それは Bill Leader とフォーク音楽との関わりを考えれば当然のことではある。

本アルバムのアウトテークは知られていない。

Bill Leader (1929- ) は1950年代後半に Topic Records (世界で初のインディペンデント・レーベル) のために London にいたアイルランドのフォーク・ミュージシャンの録音を始めた。Topic から Rambling Jack Elliott のレコードを出している。1962年から、Transatlantic Records のプロデューサーをパートタイムでやるようになる。ペンタングルの 1-5 枚めのアルバムはすべて Transatlantic から出ている。

初期のフォーク音楽の録音は低予算で、間に合わせの機材を用いていた。Bill Leader は、自分のセミ・プロ機材の Revox テープ・レコーダーを使って、自分のアパートで何人かのアーティストを録音した。防音にするために、毛布や卵ケースを使った。この辺りのことは本アルバムのトラック解説を書いている Colin Harper の著書 'Dazzling Stranger: Bert Jansch and the British Folk and Blues Revival' (2000) に詳しい。

Bill Leader による録音のジョンやバートの初期のアルバムは、シンクにテープ・レコーダーを設置し、プレーヤーは箒の押入れで演奏させられたと、ジョンが語っている。とはいえ、ジョンやバートの初期のアルバムはいづれも名盤として知られる。熱意と工夫があれば不朽の名作は生まれる。

1969年に、Bill Leader は2つのレーベルを創設する。一つは Leader で、Alan Lomax がやっていたような録音を収め、学術的なライナー・ノーツをつけた。もう一つは Trailer で、フォーク・リヴァイヴァル (1960-70年代) に焦点を当てた。この2つのレーベルはフォークやトラディショナルのファンにとっては垂涎のレーベルである。

ボーナス・トラックの6曲は、次の5枚めのアルバム 'Reflection' の時のもので、すべて未発表録音だ。

トラック6 'Will the Circle Be Unbroken [Take 1]' はアルバム版より音質も演奏もいいのではないか。


Reflection (October 1971)

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5枚め。このアルバムも4枚めにつづき Bill Leader のプロデュース。曲目は半分がアパラチアの伝統曲、半分がグループのオリジナル。もともと、ペンタングルの面々はジャズやブルーズもこなし、現代的な感覚をもっているので、この曲の配合は彼らに合っているかもしれない。実験的な先取の精神がやや強すぎる面もあった 1-2 枚めと比べると、本アルバムの完成度は高い。この頃、グループが分解しそうになっていたとは思えないくらい音楽は充実している。

録音は Nick Kinsey による (1971年3月、Command Studios and Olympic Studios, London)。音質はすばらしい。グループの各員のバランスがよいのは、音楽の性質がよくわかったビル・リーダーのプロデュースのせいかもしれない。LP よりも音像がクリアなような気がする。

ボーナス・トラックは8曲。トラック 9-12 はジョンのソロ 'Faro Annie' (1972; produced by Bill Leader) から。ジョン以外にダニとテリがペンタングルから参加している。

トラック 13-16 は本アルバムのアウトテークで、未発表録音。トラック 13 'Will the Circle Be Unbroken [Take 3] [Live Vox]' は、アルバム版の元となったテーク3で、ここでのジャキの歌唱はガイド・ヴォーカルだった。アルバム収録版は、あとで録音したヴォーカルが使われた。トラック 14 'Reflection [Command Studios] [Take 1] [Wordless Vox]' はこの曲の最初のテーク (3月19日、Command Studios)。歌詞なしの歌唱による run through (通し稽古)で、きわめて珍しい。


Solomon's Seal (September 1972)

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最後になった6枚めのアルバム。レーベルは米国の Reprise で、プロデュースはペンタングル(と John Wood)[Colin Harper は John Wood の名を挙げていない]。 全9曲中、5曲がトラディショナルで、3曲がグループのオリジナル。トラック 1 'Sally Free and Easy' は Cyril Tawney 作。 

録音は1972年2-3月 (Sound Techniques studio, London)。音質は標準的。LP には及ばない。

トラック 7 'No Love Is Sorrow' のミクシングはすばらしい。

ジャキ自身のお気に入りのアルバムという。'Willy O’ Winsbury' はジャキの絶唱のひとつ。

ボーナス・トラックは3曲。いづれも未発表録音。グループの最後の演奏旅行のうちの1972年11月10日 (Guildford Civic Hall) の公演を聴衆が録音したもののなかから、生存しているメンバーが選びだした。

トラック 11 'She Moved through the Fair' は Reprise からのセカンド・アルバムに収められる予定だった曲だろうと Colin Harper は言う。だが、バンドはこのあと解散し、この歌は未発表に終わった。ジャキとダニのデュエット。

#CD #リマスター #Pentangle #BoxSet #Jacqui  

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