[書評] 久保有政の第3ローマ帝国論
「ムー」2022年8月号(ワン・パブリッシング、2022)
世界は急速に聖書預言通りの終末に向かいつつある
「ムー」2022年8月号の総力特集記事〈第3のローマ帝国「露西亜」の黙示録大預言〉(久保有政)について(14–37頁)。
聖書を軸にして世界情勢を分析する人たちの間で共通に取上げられる最近の問題がまとめて論じてある。この視点は地政学的分析家の多くも共有していると思われる。
ただし、評者は本書での著者の意見に必ずしも賛成でないことは断っておきたい。
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著者の論点を整理するにあたり、中心的問題の二国を、A国とB国とする。A国は「マゴグの地のゴグ、すなわちメシェクとトバルの総首長」(エゼキエル38章2節)、B国は「お前はわが民イスラエルに向かって、地を覆う雲のように上ってくる」(エゼキエル38章16節)と言われるイスラエルである。
著者によれば、聖書が描く道筋は次のようになる。なお、この〈イスラエル侵攻〉は、現下の〈烏克蘭侵攻〉とは別のものである。現下の〈侵攻〉は、この〈イスラエル侵攻〉という〈大規模な軍事行動の予兆にすぎない〉と著者は言う。
A国+同盟国(10か国)がB国に侵攻し、戦いがメギド(イスラエル北部)で起こる。A国ら同盟の軍隊の侵攻は失敗に終わり、神の怒りと鉄槌が下される。その地で彼らは滅びさる。
念のため附言すると、聖書を調べれば分るが、A国がイスラエルに向かうとは書いてあるが、メギドで戦いが起こるとは書いてない。
メギド(Megiddo)の戦いのことをいわゆる「ハルマゲドンの戦い」と呼ぶ(Armageddon,〈汚れた霊どもは、ヘブライ語で「ハルマゲドン」と呼ばれる所に、王たちを集めた〉ヨハネの黙示録16章16節)。
著者によれば、〈この戦いは、世界最終戦争ではあるが、全人類滅亡の戦いではない。さらにいえば、人類同士の戦いでさえない。それは「神の勢力」対「地上の悪の勢力」の戦いなのである〉(32頁)。
この〈イスラエル侵攻〉が失敗に終わることは聖書に「ゴグがイスラエルの地を襲う日、まさにその日に、と主なる神は言われる。わたしの憤りは激しく燃え上がる。(中略)主なる神はこう言われる。メシェクとトバルの総首長ゴグよ。わたしはお前に立ち向かう。わたしはお前を立ち帰らせ、お前を導いて北の果てから連れ上り、イスラエルの山々に来させる。そして、お前の左手から弓を叩き落とし、右手から矢を落とさせる。お前とそのすべての軍隊も、共にいる民も、イスラエルの山の上で倒れる。」と書いてある。(エゼキエル38章18節−39章4節、新共同訳聖書)
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A国はどこか。多くの聖書研究家および地政学的分析家はそれを露西亜としている。「マゴグの地のゴグ、すなわちメシェクとトバルの総首長」の「総首長」の原語のヘブライ語は、著者によれば「ルーシ」(רֹ֖אשׁ, Rosh, ローシ)であり、「ルーシ」(Rus)は露西亜(Russia)の語源になったとされる。
なお、「メシェク」(Meshech)は莫斯科(Moskva)の語源になったとされる。また、スラブ人は「トバル」の子孫という。「マゴグの地」は露西亜南西部のあたりとされる。
メシェク、トバル、マゴグはヤペテ(ノアの3人の息子の1人)の子孫である(「ヤフェトの子孫はゴメル、マゴグ、メディア、ヤワン、トバル、メシェク、ティラスであった」創世記10章2節)。
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A国と同盟する10か国はどこか。諸説あるが、著者が挙げるのは次の国々である。括弧内に聖書における古代名を記す。
イラン(ペルシア)、エチオピア(クシュ)、リビア(プテ)、トルコ(ベテ・トガルマ)、ベラルーシ、シリア、中国、北朝鮮。
ベラルーシ以降は著者の推測である。以上でも、まだ合計8か国で、残りの国名は現時点では不明。
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最後に第3ローマ帝国にふれる。〈モスクワは第3のローマ〉という露西亜人の言い伝えがあるという。
著者によれば、〈第1のローマはイタリアのローマ、第2のローマは東ローマ帝国の首都コンスタンティノープル、そして第3のローマがモスクワ。つまり露西亜は第3ローマ帝国なのである〉。
下斗米伸夫法政大学名誉教授によると、〈プーチンの目指しているのは、じつはこの「第3ローマ帝国」としての強大な露西亜を作ることだという〉。
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ひとつ気になることがある。聖書に、北方の軍事大国の出現と、その最終的な滅亡が預言されているとすれば、聖書を読む人はそれを知っているはずである。
それを国民に知られないために、プーチン露西亜大統領は2016年に「伝道規制法」という法律を作ったと著者は指摘する。聖書の話や伝道は教会内ではしてもよいが、教会外では禁止という法律である。
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