[書評] 文化には力がないと考えるかもしれないが、むしろ文化が政治を動かす
田中秀道『日本国史・下——世界最古の国の新しい物語』(育鵬社、2022)
政治中心に綴る歴史書が多い中で、本書は異色だ。文化を中心に歴史を描き出す。さらに、最後には、国家間のかかわりとしての世界史でなく、〈国と国との間に立って動き回る人々〉にまでふれる。まことに異色の歴史書だ。
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〈文化には力がないと考えるかもしれませんが、むしろ文化が政治を動かしたのです〉と著者は述べる。
これは何についての記述かと訝しむ向きもあろうが、実はこれは源頼朝の行動についての言葉だ。
どういう場面か。養和元年(1181)、平氏によって焼かれた大仏が再建された建久六年(1195)に、頼朝は妻の北条政子と共に〈わざわざ鎌倉から奈良にやって来ました〉と著者は書く。
それほど東大寺の再建は重要だったのだ。あの頼朝が、と驚いてしまう。
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鎌倉時代は美術的にいうとバロックの時代だと、美術史家の著者は述べる。その一例が再建された東大寺の南大門。
両脇に安置された巨大な金剛力士像は、見たことのある人も多いだろう。この像の〈荒々しい動きのある肉体表現はバロックそのもの〉だという。
ところで、評者はこの金剛力士像は運慶や快慶の作と習った憶えがあるが、著者によると、それは間違いで、〈修復中に見つかった記録から定覚と湛慶の作であることがわかっています〉ということだ。
この湛慶(たんけい)は、運慶の子。湛慶や康勝(こうしょう)、康慶、快慶、定慶(じょうけい)ら、すぐれた仏師を慶派と呼ぶ。
中でも、康勝の作である空也上人の像は、〈この時代の仏教彫刻の極北と呼べる作品〉であると、著者は断言する。このあたりの鎌倉美術の記述は、他の歴史書には見られないすぐれたものだ。
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国家間で暗躍する人々の話は〈ユダヤの金融資本〉のことで、これは日露戦争などを考える際には必須のことだが(日銀副総裁の高橋是清の求めに応じてユダヤ人の資本家ヤコブ・シフが戦費を援助した)、一般の歴史書では、あまり表立っては取上げられないだろう。
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本書を読み終わり、やっと〈積ん読本〉の山の一角を攻略できた。現在の次の攻略目標の積ん読本の一部を掲げて終わりにする。
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