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[英詩]ディキンスンが描いた夕暮れのグラデーション

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

Emily Dickinson, 'She sweeps with many-colored brooms'

19世紀アメリカの女性詩人エミリ・ディキンスンの詩は、好きな人が多いのですが、詩によってはよく分からないことがあります。分からないなら、放っておけばよいようなものですが、そうもいかないこともあります。

というわけで、次の詩は、ぜひとも内容を知りたい人もあるかもしれません。

She sweeps with many-colored Brooms -
And leaves the shreds behind -
Oh Housewife in the Evening West -
Come back - and - dust the Pond!

You dropped a Purple Ravelling in -
You dropped an Amber thread -
And now you've littered all the East
With Duds of Emerald!

And still, she plies her spotted Brooms -
And still the Aprons fly,
Till Brooms fade softly into stars -
And then I come away -

以下、この詩について、英語で書かれた詩としての解読を試みます。夕暮れにさまざまな色のグラデーションが見えることについて書かれた、おそらく世界でいちばん美しい詩です。

上の詩のテクストは1862年に書かれたものです。ジョンスン番号でいうと219番、フランクリン番号だと318番です。(ジョンスンとかフランクリンとかは、ディキンスンの詩集の定本の編者の名前です。ディキンスンの詩にはタイトルがないので、言及するときはこうした番号を使うことが多いのです。)

この詩のテクストについて一言。ジョンスン以降にきちんと改訂されたディキンスンの詩のテクストはおおむね上のようなスタイルをとっています。このテクストにはひとつの非常に大きな特徴があります。それはダッシュの多用です。

なぜダッシュを多用したのかについては研究者の間で諸説あります。私は当時の賛美歌の楽譜の歌詞表記に影響を受けたという説を採っています。歌詞では言葉が複数の音符にまたがるとき、つながっていることを示すためにダッシュを多用するからです。

ともあれ、通常の句読点の代わりにディキンスンはダッシュを多用し、その結果、ピリオドがない詩も多いのです。そこで、通常の英詩を読むときの手続き——ピリオドまでを1センテンスとする——が使えないのです。どこに頭の中でピリオドを置いて読むかは解釈に委ねられることになります。

ではまず、日本語に訳してみましょう。

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