[英詩]ディラン専門誌 'Isis' 編集者Derek Barkerの本
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ボブ・ディランの最も長く続いているファンジン 'Isis' (下) を1985年に創刊した Derek Barker が本を出しました。
'Too Much of Nothing' (2018) という本です(下)。
1966年から1978年までのディランの12年間について過去35年にわたる研究をまとめた本です。この時期は「失われた歳月」と呼ぶ批評家もあり、ディランの活動の空白の期間のように扱われています。しかし、アルバム 'John Wesley Harding' (1967) および続く12年には大きな意味があると論じています。今回は、この本について2019年に出た電子書籍版をもとに簡単に紹介します。
バーカー・インタビュー
その前に著者デレク・バーカー (下) の人となりを少し見ておきましょう。
Liv Siddall による インタビュー 記事 (It's Nice That, 2015年3月23日) が参考になります。
インタビューアーを LS、バーカーの発言を DB で表します。
LS: You’ve got to be quite a Bob Dylan fan to make a magazine about him – what do you personally love about Bob Dylan’s music?
(ボブ・ディランについての雑誌を作るとは相当なファンなのでしょうね。個人的にボブ・ディランの音楽のどういうところが好きなのですか。)
DB: Oh, wow, where to start? I guess the first thing to say is that I’m a huge lover of lyrics. It’s mostly about words for me. Over the years, Bob has done and said it all: the incredible surrealism of the mid-1960s, the personal observations, some might call them “protest songs," songs about life, including in later years ageing and mortality. I have lived through many of those same changes myself and so like thousands of Dylan fans it seems like we’ve been Together Through Life.
(うわ、どこから始めよう。最初に言っておくべきなのは、ぼくは歌詞の大ファンだということです。ぼくにとって問題なのはほとんど言葉です。長年にわたって、ボブが歌でそれをぜんぶ言っています。すなわち、1960年代半ばの信じられない超現実主義、個人的意見、いわゆる「プロテスト・ソング」、人生についての歌それも後年になると加齢や死についての歌です。ぼく自身も同じような変化を多く経験してきたので、何千というディラン・ファンと同じく、「共に生きてきた」'Together Through Life' ような感覚です。)
Bob Dylan, 'Together Through Life' (2009)
*
LS: Fan culture, I believe, is dying out a little due to a lot of things. Do you think the culture of fanzines and die-hard fans are going to keep going for eternity?
(ファン文化は多くの原因で少しづつ滅びかけていると思います。ファンジンの文化や筋金入りのファンはいつまでもなくならないと思いますか。)
DB: I don’t think it’s just fan culture that is declining; young people aren’t listening to music anywhere near as much as we used to. And when they do listen, a lot of the time they don’t listen properly. There’s a difference between “hear” and “listen.” So often it’s music on the move or maybe playlists on some internet service like Spotify. They don’t give themselves over to the music anymore; it’s either playing in the background while they’re doing something else or it’s very poor quality.
(衰退しつつあるのはファン文化だけじゃないでしょう。若者の音楽の聴き方は、ぼくらがかつて聴いていたような聴き方とはかなり違います。彼らが聴くとしても、多くの場合、きちんとは聴いていないのです。「聞こえてくる」と「聴く」は違います。だから、彼らの聞く音楽は、しばしば移動中の音楽であったり、たぶん Spotify のようなインターネット・サービスのプレイリストであったりするのです。彼らはもはや音楽に没頭することがないのです。音楽は、何か他のことをしている時にバックグラウンドで鳴っているものか、あるいは非常に音質の悪いものです。)
These days, it seems people are more than happy or pay £2.75 or whatever for a latte from a supposedly trendy coffee shop. Add a pastry to your double-shot tall latte with extra foam and caramel drizzle and you could have bought an album that might have taken someone six months or a year to construct and could give you a lifetime of enjoyment! They expect and are happy to pay for the coffee, but not the album!
(この頃では人びとは、はやりと思われているコーヒー店でラテを飲むのに、喜んで2.75ポンド[=約400円]払うようです。泡を増やしキャラメルを足したLサイズのラテにペーストリーを加えれば、アルバムが買えちゃいます。アーティストが半年か1年かけて作った成果で、一生たのしめるようなアルバムがです! 彼らはコーヒーには期待し喜んでお金を出すのですが、アルバムにはお金を使わないのです!)
*
前置きはこれくらいにして、本を見てみましょう。
'Too Much of Nothing'
本書は Isis 誌のために著者が行った35年にわたる研究をまとめた本で、ディラン周辺の多くの人へのインタビューのほか、アルバム 'John Wesley Harding', 'Nashville Skyline', 'New Morning', 'Planet Waves', 'Blood on the Tracks', 'Desire', 'Street-Legal' などの詳細な検討、2つの重要なライヴ (1969 Isle of Wight, 1978 Picnic at Blackbushe) の解説を含む。
が、ここでは、ディランが1966年7月29日のバイク事故以後、大衆の前から姿を消した時期がいかに変革をもたらしたか、1966年以降に生み出した音楽がそれまでの音楽とどれほど違っていたかにしぼって取上げる。
ディランは後にこう振りかえった。
The turning point was back in Woodstock.
(転機はウッドストックにいたときだった)
さらにつづく。
A little after the accident. Sitting around one night under a full moon. I looked into the bleak woods and I said: 'Something's gotta change'.
(事故から少したったころだ。ある満月の夜、何もしないでいた。荒涼たる森をのぞきこんで言ったんだ。「何かが変わらなくちゃいけない」)
そのときディランの中で何かが動いたのだ。
本書はそのさまざまな変化を跡づける。
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