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Caol Áit / 妖精・天使・精霊

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アイルランドの伝承にいう Caol Áit を探し求める研究ノート、および、あっち系に見えますがマジメな妖精・天使・精霊の議論
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#コラム

妖精の起源(付:ルシフェル、人名レノン)

アイルランドの妖精譚の大部分は刊行されていない。いまだに収集者の手書きのカードが保管庫に収まっていて、いつの日か文字に起こす人が出るのを待っている。 duchas.ie というウェブサイトは、その種のコレクションが画像の形で集成されているところの一つで、篤志家の協力を待っている。そのうち、The Schools’ Collection という1930年代にアイルランドの生徒が収集したフォークロア・コレクションがあり、妖精譚が含まれている。 筆者は時間を見つけて少しづつ手書

¥150

書いているのは自分ではない

小野美由紀さんの次の発言が印象的だった。 小野:「自分が書いている」と思うとしんどいけど、「自分の中の他人がやっている」と思うとラクになりますよね。 出典:「限界集落で「創作」を語る:ヒビノケイコ×小野美由紀×イケダハヤト」(2016/02/17) この考え方は何も新しい話ではない。古くは古代ギリシアの頃から、作家や詩人にはダイモン(daemon, 半神半人、神と人の間の霊的存在)が降りてきて書くものだということになっている。人間が自分で書くという観念はそもそもなかった

¥200

[書評]赤毛のハンラハンと葦間の風

イェーツの幻の物語(1897年版『秘密の薔薇』) W.B.イェイツ『赤毛のハンラハンと葦間の風』(平凡社、2015)  1897年版『秘密の薔薇』に収められた物語「赤毛のハンラハン物語」の本邦初訳。くわえて、1899年の詩集『葦間の風』初版から十八篇の詩を訳してある。  本を手に取るよろこびが味わえる。小さな緑の本。背表紙に題名等が金箔押し。端正な函に収められている(函の絵は1927年版の挿絵から第二話の「縄ない」)。すみずみまで気の配られた本。大きさは同じ平凡社の東洋

Fairy Bush

'fairy bush' 「妖精の木」について、興味本位や空想をもとにふれたものは別として、フォークロア学からアプローチしたものがある。ふつうは植物を観る際に植物学的知識をならべた後に附けたしとしてフォークロアを添えるものが多いが、逆の行き方もある。植物についてフォークロア学の知識をならべた後に附けたしとして植物学的知識を添えるものである。その観点からすると五月のサンザシ、特に一本ぽつんとあるサンザシはフォークロア的にどんな意味をもつのか。

¥100

妖精譚の今日 (Eddie)

アイルランドからエディー・レニハン (Eddie Lenihan) が2016年来日した。招聘した人から話を聞き、ショックを受けた。今日のアイルランドでは彼が妖精譚を話すと「嘘を話すな」と言われるのだという。(彼は2年後にまた来日するかもしれない)

¥200

Molly Wolf の経験した「うすい場所」

 ウルフという神学者が「うすい場所」を体験したことを書いている。この神学者は文章が抜群にうまく、神学の思想も深く、親しみやすく、おもしろい。ちょっと稀有な霊性研究者かと思う。  カナダでそういう場所のことを知っていたと書いている。いまいるこの世界と異界との膜が非常にうすく、一歩進んだだけで行き来できるような場所のことだ。彼女が書くことは精妙な体験の話なので文体がすべてだ。この文体のひだに秘密がかくされている。  ケルトの伝承についてふれたのが次の箇所だ。 The C

Caol Áit 「薄い場所」を求めて

 アイルランド語で caol áit という言葉がある。  文字通りには「狭い場所」の意味だ。あるとき、次のような文章にPinterestで出くわし、興味を惹かれた。 One Irish legend goes that at any given point in time, the veil between Heaven and Earth is three feet wide. The legend goes on to say that there are phys