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Book/Film Reviews

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#映画

[映画] パゾリーニの詩学

Il Vangelo secondo Matteo (1964) 「奇跡の丘」(伊・仏、1964) 監督・脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ Enrique Irazoqui: Cristo Margherita Caruso: Maria da giovane Susanna Pasolini: Maria anziana Marcello Morante: Giuseppe Mario Socrate: Giovanni Battista 無神論者が作った映画がこれほど

[映画] 'Sing Street' と Christian Brothers

アイルランドの映画 'Sing Street' (2015) を見てきた。見ることができてよかった。 7月9日に上映が始まったが、もう15日にも終わりそうだったので、大雨の予報だったけど、出かけた。 そしたら、驚いたことに、館は7割以上うまっていた。みんな、この映画が観たくてしかたないというようすだった。ここしか時間がとれずに無理をしてでもやってきたという感じの人もいただろう。映画の最後のクレジットの画面で立つ人がほとんどいず、みんな最後の音が消えるまでじっと聞いていた。

[映画] たそがれる

 映画「めがね」(2007)を観た。  ほとんど何の先入観もなく観た。  荻上 直子(監督・脚本)の非凡なシネマトグラフに魅せられた。 ***  あとで気づいたのだが、カウリスマキと接点がある。なんと「ル・アーヴルの靴みがき」(2011)は「めがね」より後の作品なのだ。 ***  この映画で繰返される「たそがれる」とはどういう意味なのだろう。これと、ある意味で対比される、島のもう一つの宿のポリシーとはどういう関係にあるのだろう。 ***  それにしても、圧倒的

[映画] 本物以上に本物らしい

どう見てもあの二人に見える。 そう、ボブ・ディランとアレン・ギンズバーグに。 だが、違う。本当は Cate Blanchett と David Cross だ(映画 'I'm Not There')。 *** この映画はディランの「伝記」映画なのだが、6人の俳優がディランのさまざまな側面を演じるという実験的なところがある。ぼくはケート・ブランシェットの演じるボブが一番かっこいいと思う。 *** 「ディランと映画」の章をある本で読んでいて、自分があまりにも少ししか見

[映画] 森があります

 映画「かもめ食堂」(2006)を観た。  浮ついたところのまったくない映画だ。  しかし、客観的に考えると浮世離れしているともいえる。最初の客トンミ青年が来るまでに1ヶ月かかっている。 ***  アキ・カウリスマキ監督「過去のない男」(2002)の主演、マルック・ペルトラ(Markku Peltola)が食堂店主サチエにコーヒーがおいしくなるおまじない「コピ・ルアク」(インドネシア語 Kopi Luwak)を教える男として出演する。 ***  フィンランド人のぼ

[映画] Saoirse Ronan

Saoirse Ronan が主演する映画を3本観た。 急いで言っておくと狙った訳ではない。 飛行機に乗ると映画を観て過ごすことが多い。今回のアイルランド行きでは往復で8本観たが内3本がたまたま彼女の映画だっただけのことである。 観たのは次の映画。 Brooklyn (2015) On Chesil Beach (2017) Lady Bird (2017) American-Irish actress という紹介がされるが、確かにそんな女性だ。映画の設定に応じて、

一音楽家の感想——映画「神は眠るが、我は歌う」

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【映画評】 アイルランド競技会へ海外から参加する人びと

 アイルランド映画 'The Boys and Girl from County Clare' (2003) は抱腹絶倒のコメディながらアイルランドの伝統音楽競技会にからむ人間模様を映画の形で見事に拳拳服膺してみせた作品といえる。  ケーリー・バンドの全アイルランド大会に参加する三カ国のバンドのリーダーたちとバンド・メンバーとの知られざる過去が物語の中で意外な展開をする。一つはクレアから参加したケーリー・バンドで、他の二つはリヴァプールと南アフリカからの参加。  このリー

【映画評】Rolling Thunder Revue

Rolling Thunder Revue: A Bob Dylan Story (Netflix, 2019; dir. Martin Scorsese) Netflix オリジナル。2019年。 ボブ・ディランの1975年の公演旅行のもようをマーティン・スコーセイジ (Martin Scorsese, マーティン・スコセッシ) 監督が(一部ドキュメンタリの)映画にした。 はじめに言っておかなければならないのは、映画としては実に力のある映画であることだ。ディランやギン

[映画評]CE5 (2020)

Close Encounters of the Fifth Kind: Contact Has Begun (2020) "I theorize that there is a spectrum of consciousness available to human beings. At one end is material consciousness. At the other end is what we call 'field' consciousness, whe

[映画]100歳の少年と12通の手紙

映画「100歳の少年と12通の手紙」'Oscar et la Dame rose (仏白加、2009) 監督・脚本・原作 Éric-Emmanuel Schmitt 原作小説 'Oscar et la Dame rose' (2002) ['Cycle de l'invisible' の第3部] 出演 Amir Ben Abdelmoumen as Oscar, Michèle Laroque as Rose 白血病で余命いくばくもない10歳の少年オスカーは両親とも口をきか

[映画評]'I'm Not There'

泣けるほどいい映画だ。 音楽も抜群。ボブ・ディランの伝記映画といってもいいし、彼が死の直前に見る人生の走馬燈のような映画といってもいい。映像も美しい。 すべてがシームレスにつながっている。 映画としての作りはきわめて実験的だけれど、まったくそんなことを感じさせない。 ディランの少年期から壮年期までを六人の俳優が演じる。中には女優もいる(Cate Blanchett)。本当はもっとたくさん必要なくらいだろうが、2時間余りという映画の枠ではこのあたりが限界だろう。ともか

[映画評]Unacknowledged

Unacknowledged: An Exposé of the World's Greatest Secret (2017) グリア博士のドキュメンタリ第2作。 今回も怒涛の証言が埋めつくす。事実のみに語らしめるという姿勢が一貫しており、圧倒的だ。 映画としては第1作の 'Sirius' より整っているが、南米で見つかった ‘Atacama Humanoid’ の話は本作には出てこない。 アマゾンのプライムで観たが、日本語字幕なしで英語音声のみ (日本語字幕つきの

【映画】Bernardo Bertolucciの5本

最近、ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画を5本観た。Bernardo Bertolucci (1941-2018) はボブ・ディランと同じ年の生まれだ。 どれも忘れがたい映画だったが、本当に忘れないために、覚書をしるす。年代順に。ベルトルッチは、ある種の「囲い」と含意された「囲いの外」とを描きだすのがうまい。ヴィットリオ・ストラーロが撮影を担当したものは映像がため息がでるくらい美しい。坂本龍一が音楽を担当した映画は音楽が印象的だ。 暗殺のオペラ (伊、1970) Stra